慶応大学菊澤ゼミナールHP

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私の著書

2)不条理の経済学

2017年5月10日 (水)

働き方改革の不条理

  経済学者によると、今日、日本人は割に合わない労働活動を行っているようだ。つまり、やりすぎ。働いている労働の割には、商品が安い。サービスが安いという。だから、経済学的に割に合わないのである。この傾向は、「おもてなし」という名のもとに隠れているという。

  したがって、割にあうように、労働時間を減らすことが政策となる。あるいは、製品やサービスの価格を上げることが政策になるのだろう。

  しかし、経済学的に割に合う労働を追求すると、人間は不条理に陥ることになる。つまり、経済的に効率的であるが、不正を犯すのだ。

  たとえば、安全性問題の例が分かりやすい。原発事業のように、完全安全性を追求すれば、経済学的にコストが最大化となり、このビジネスはわりに合わないのだ。経済学的にわりに合うようにするには、安全性に関して手抜きをすることになる。手抜きの安全性が経済合理的という不条理に陥ることになる。

 日本人は、これまで経済学的に割に合わないビジネスを行ってきたということは、決して悪いことではないのだ。そこに、日本企業の文化や伝統があるのかもしれない。長時間労働が良いわけではないが、こういった側面も観る必要があるように思える。

菊澤 研宗: 組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫 き)

菊澤 研宗: 組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫 き)

2017年5月 9日 (火)

人間に関する研究と不条理

  経営学分野で、経営学者が弱い分野は人事労務論である。経営学者は、華やかな分野を好むので、いまは戦略論が一番人気。人事労務論は、地味な分野ということで、この分野の層は薄い。

 こうした状況で、計量経済学者が、労働経済学の名のものに、今日、優れた研究を発展させており、いまはこの分野は経済学の領域になっている。

 しかし、私個人としては、やはり人間にかかわることなので、数値では限界があるように思える。したがって、経営学者もこの分野にもう一度かかわる必要があるように、最近、思う。

 最近、「働き方改革」というスローガンのもとで、いろんなデーターを用いて、経済学者が政策論的議論を展開していて、非常に興味深い。しかし、こういった議論は、大抵、経済人が仮定されており、非経済人としての人間は無視されている。

 たとえば、労働時間を強制的に減らすことは良いことかもしれない。日本人はわりに合わない労働をしているという。こうして、労働時間は削減され、そういった制度に日本企業そして従業員は他律的に従うことになる。

 このとき、人間の自律性が抑制される可能性もある。労働時間とは無関係に、自律的に創造的に働きたい人もいるかもしれない。この非経済人的な側面。これこそ、人間性なのだが、この点は無視されるべきなのであろうか。

 私の研究では、他律的な経済人は、いつかどこかで合理的に失敗する。不正をしてまで効率性を追求したり、全体を無視して個別利益に走ったりすることになる。

 人間の自律性を無視した議論は、危険である。

菊澤 研宗: 組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫 き)

菊澤 研宗: 組織の不条理 - 日本軍の失敗に学ぶ (中公文庫 き)

2016年10月10日 (月)

連帯責任制度の功罪:不条理な制度

ある知り合いから、高校野球の連帯責任制度についてのコメントを求められたので、私の考えを紹介します。

 

もし集団の一人が問題を起こすと、他のメンバ―も責任を取らなければならないという連帯責任制度は、大変、興味深い制度です。

 

この制度の面白さは、問題が起こる前と問題が起こった後では、この制度の効果が異なる点です。

 

(1)問題が起こる前:この制度のもとに、各メンバーは、他人に迷惑をかけないように問題を起こさない範囲で行動しようと努力する。したがって、この制度は個々人の道徳的行動を促すような効果を持っています。(他人の自由を侵さない人間主義)

 

(2)ところが、問題が起こると、この制度は変貌します。集団主義的で悪徳的な行動を促す制度になります。ある人の失敗が他のメンバ―の失敗にもなるので、集団で相談し、損得計算し、その結果、100%失敗を隠ぺいすることが合理的となり、組織的隠ぺいが発生します。それは悪徳的であるが、合理的なのです。つまり、合理的不正という不条理が発生します。(損得計算主義・経済合理主義)

 

ここで、もし経済学が仮定しているように、すべての人間が完全に合理的ならば、(1)となり、この制度は個人主義と道徳的行動を促進する良い制度であるといえます。

 

しかし、実際には、人間は限定合理的なので、(2)が起こりうるのです。したがって、この制度は、悪しき集団主義を促進し、組織の隠ぺい体質を育成する役割を果たすことになる不条理な制度といえるでしょう。

 

このような制度を維持するべきかどうか。これは大変難しい問題です。というのも、(1)の効果も持っているからです。

 

2011年8月 7日 (日)

派閥をめぐる評価の不思議

いまいろんな研究と平行して、派閥の研究も進めている。しかし、いま、毎日100分講義を2回(200分)の集中講義(通信教育学部のスクーリング)をしていて、体力を使い果たし、なかなか研究できないで、焦っている。

さて、派閥というと、大抵の人は悪いイメージをもっていると思う。しかし、それに対する決定的な論拠はあまりないように思う。ネットでも探しているが、派閥の決定問題点を指摘している議論は少ないように思う。

しかも、決定的に悪い存在ならば、とっくの前に消滅しているはずだ。しかし、いまだに形や名前を変えて存在している。存在していないという人もいるが、むしろその人はコースから外れているのではと思うこともある。

この矛盾を解くのが今回の研究である。

菊澤研宗: なぜ「改革」は合理的に失敗するのか 改革の不条理

菊澤研宗: なぜ「改革」は合理的に失敗するのか 改革の不条理

2010年10月 3日 (日)

女性検事はすごい。命令違反が組織を伸ばす。

 大阪地検の証拠改ざん疑惑。この事件は衝撃的だ。公平であるべき裁判で、相手に罪をかぶせるために、検事が相手が不利になるように証拠を改ざんし、しかもそれを隠ぺいするという事件だ。もう世も末だ。この組織はどうなっているのだ。

記事

http://dailynews.yahoo.co.jp/fc%2Fdomestic%2Fosaka_prosecutor_evidence_tampering%2F#backToPagetop

問題は二つに分けられる。

(1)なぜ改ざんしたのか。

(2)なぜ改ざんし、その発覚を恐れて隠ぺいしようとしのか。

(1)については、人事制度が問題なのかもしれない。多くの事件で相手に罪を認めさせると、昇進するという明示的ルールあるいは非明示的ルールがあったのかもしれない。それが、人間をこのような悪しき行動へと合理的に導いたのかもしれない。つまり、不条理を生み出したのかもしれない。

(2)も、組織の不条理だ。おそらく、この事件に関わるうちに、実はこの事件は「シロ」だと気づいたが、途中で後戻りできなくなったのではないか。後戻りするには、あまりに交渉取引コストが高いと認識したのだろう。マスコミ対応。組織の存亡。組織内での交渉取引コストの膨大さだ。

このままいけば、この組織は相当悪しき組織へと発展していただろう。しかし、この組織はまだ再生可能だと思う。この問題がどうなるかまだ未定だが、これを基礎に進歩できる可能性はある。

この意味で、この事件を明らかにした女性検事の正義には拍手を送りたい。彼女は、上司の命令を退け、自分の進退をかけて、正義に従い上司に迫ったのだ。すばらしい。私は言いたい。命令違反が組織を伸ばす!

拙著『命令違反が組織を伸ばす』光文社新書

菊澤 研宗: 「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書)

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334034136/kikuzawakensh-22

2010年9月23日 (木)

今秋、10月、編著『企業の不条理』が中央経済社から出版!

 今秋、10月に、菊澤研宗編著『企業の不条理』が中央経済社から出版される。内容は、以下のような内容だ。前回の『業界分析 組織の経済学』よりも、さらにレベルアップした内容となっている。新制度派経済学に関心のある人は、ぜひ購入してほしい。大変、面白い内容となっている。

企業の不条理

菊澤研宗編著

第Ⅰ部 私企業の不条理

第Ⅱ部 公企業の不条理

第Ⅲ部 企業統治の不条理 

 姉妹書として、私の兄弟子である渡部直樹慶大教授編著の『ケイパビリティの組織論・戦略論』も中央経済社から、発売されたようだ。この本も、最新のD.ティースの論文が所収されており、最新の経営戦略論について学ぶことができるだろう。

ケイパビリティの組織論・戦略論

アマゾン

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4502679100/kikuzawakensh-22

セブン&アイ

http://www.7netshopping.jp/books/detail/-/accd/1102975047/subno/1

2010年7月17日 (土)

連立かあるいはパーシャル連合かの取引コスト理論分析

 今回の参院選で、民主党は大敗した。今話題になっているのは、今後、どの政党と連立を組むのか、あるいは特定の政党と連立を組まずに、政策ごとにそのときどきに連合を組むかを迫られている。

 取引コスト理論からすると、前者は組織的政治システムであり、後者は市場的な政治システムだ。後者の方法は、政策中心で、一見、素晴らしいシステムに思えるが、取引コスト理論からすると、後者は非効率的になりやすく、不条理を生み出すだろう。

 つまり、政策ごとに相手を変えるということは、政策ごとに政党同士が交渉・取引する必要があり、その取引コストがあまりにも高い可能性がある。このコストが高い場合、たとえある政策を実行することが望ましく正しくても、取引コストが高くて相互に歩みよれないという不条理が起こる可能性が高いのだ。

 おそらく、政治の場合には、連立のような組織的なシステムの方が取引コストが低く、政策は実行されやすのではないかと想像できる。

 パーシャル連合、良いネーミングなのだが、経済的に非効率的な政治システムかもしれない。民主党の今後の動きを見守りたい。

2009年12月15日 (火)

不条理な事例

 今年は、日吉の応用経営学で、取引コスト理論について説明し、「不条理の事例について書きないさい」という課題を与えた。まだ、採点中だが、今年の2年生の回答は非常にユニーク回答が多い。しかし、不条理にとらわれて、講義の内容とはまったく関係のない不条理を書いている学生も多くいた。これは、減点となる。

不条理の事例:

コンビニでは、缶ジュースは120円である。スーパーでは100円で販売されている。しかし、大抵、スーパーは便利な所にはない。それゆえ、多くの人々はわざわざスーパーまでいって缶ジュースを買わないだろう。その方がコストがかかるからである。こうして、われわれは不条理にも20円も高い120円のシュースを合理的に購入している。

不条理の事例:

ある受験生は、最初は一橋大学を第一志望とし、第二志望を早稲田としていた。しかし、成績が伸びないので、受験科目の多い一橋大学をあきらめて、科目数の少ない早稲田に集中しようかと考えた。しかし、このとき、これまで一橋大学を目指して頑張った努力が埋没コストになる。そこで、結局、変更しなかった。しかし、結局、両方とも落ちて、いまは関係ない大学に行っている。

不条理の事例:

中京女子大は受験生が減少したために、女子大をやめて、男女共学にした。それにもかかわらず、名前は中京女子大のままだった。なぜか。そこには、レスリングのオリンピック選手がたくさんいて、中京女子大という名前がすでに知られており、変化するコストは高かったからである。

2009年2月18日 (水)

記者の不条理

 中川前大臣をめぐる騒動はいまだ終わっていない。風薬なのか、飲酒なのか。今度は、中川大臣と同行し、食事をしていた記者の行動が注目されている。

 いまだ、真実はわからないが、記者は「組織の不条理」に陥っているかもしれない。

同席していた記者にとって、もし状況を説明すれば、中川氏との関係は悪化し、今後、これまでのような良好な関係を回復するにはものすごい「取引コスト」が発生するだろう。それは、無限に近いコストかもしれない。しかし、それは記者としてあるい日本国にとっては非効率的かもしれないし、正しいことではないかもしれない。

 このような状況では、大抵、人間は社会的合理性を捨てて個別合理性を追求するという「組織の不条理」に陥ることになる。むずかしい問題だ。

 本日、報道番組で、私ならば記者に本当のことを記事にして書くべきだというというコメンテータがいたが、何か歯切れが悪い印象を受けた。

2009年2月14日 (土)

定額給付金をめぐる組織の不条理

 定額給付金をめぐって、ますます混迷した状況になってきた。もともと、この政策をめぐって、取引コスト理論的には、いくぶん疑問点があった。

(1)給付金それ自体が生み出す社会的メリットとそれを実現し配分するために必要な交渉取引コストがどちらが大きいのかとう点で、もととも疑問であり、問題であった。

 しかし、そのうち、この問題を解決せずに、この政策が多大な取引コストをかけながら(交渉取引に時間をかけながら)も実現可能性が徐々に高まってきたとき、先日、小泉首相がこの政策に否定的な発言をした。

 このとき、不条理が発生した。

(2)この政策を実現するものと思って、すでに多くの自治体や企業が多大な投資しており(たとえば、そういう部署を設置したり、1万2千円の商品開発したり)、ここでもしこの政策を中止すると、その投資は回収できないし、この政策をめぐる多くの利害関係者を説得する必要に迫られる。

 こういったさまざまなコストや交渉取引コストの大きさを考えたら、たとえこの政策がもはや非効率的で効果のないものだとわかっていても、もうあと戻りできないのでは・・・・・

 何かガダルカナル戦に似てきた感じだ。

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