もののあわれ
日本人の心を表す表現として「もののあわれ」という言葉がある。われわれは、どうしても「あわれ」に気が取られ、これを悲しみという意味に解釈しがちである。本居宣長の研究をしていた小林秀雄によると、それは、ある人の無償の行動をみたとき、思わず「ああ・・・」と発するようなことだという。私は、これを現代風にいえば、ある人の行動をみて、「すてきだな」、と思うことだと解釈する。
菊澤 研宗: 成功する日本企業には「共通の本質」がある 「ダイナミック・ケイパビリティ」の経営学
最新作です。アマゾンで予約可能になりました。
菊澤編著: ダイナミック・ケイパビリティの戦略経営論
最新の戦略経営論です。戦略経営論に関心のある人には、必読です。
菊澤研宗: 改革の不条理 日本の組織ではなぜ改悪がはびこるのか (朝日文庫)
拙著『組織の不条理』の姉妹編です。現代の不条理現象を分析しています。
菊澤 研宗: 組織の経済学入門 改訂版
改訂版です。ほとんど同じですが、少しクールな感じです。
菊澤 研宗: 戦略学―立体的戦略の原理
2016年2月で5刷となりました。
菊澤研宗: ビジネススクールでは教えてくれないドラッカー(祥伝社新書)
ドラッカー、カント、小林秀雄です。
野中 郁次郎: 失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇
私の論文も掲載されていますので、ぜひ読んでみてください。
David J. Teece: Dynamic Capabilities and Strategic Management
最近、注目されているダイナミック・ケイパビリティの本
経営哲学学会: 経営哲学の授業
経営哲学の本がやっとできました。面白いですので、ぜひ買ってください。 (★★★★★)
菊澤 研宗: 「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書)
東電の吉田所長の行動の意味を理解するために、読んでもらいたい。
菊澤研宗: 戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか (光文社新書)
キュービックグランドストラテジーについて知りたい人はこれを読んでください。
菊澤研宗: なぜ「改革」は合理的に失敗するのか 改革の不条理
私の新著です。読みやすくなっています。関心のある人はぜひ一読お願いします。
NHKスペシャル 日本人はなぜ戦争へと向かったのか 上
NHKスペシャルの本
TVでは見れない私のインタヴューが掲載されています。
菊澤 研宗: 企業の不条理
新著です。
菊澤研宗: 戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか (光文社新書)
新書『戦略の不条理』をさらに詳しく知りたい人
ガバナンスの比較セクター分析―ゲーム理論・契約理論を用いた学際的アプローチ (比較経済研究所研究シリーズ)
この本の第4章を書いています。 (★★★★★)
週刊ダイヤモンド別冊 歴学(レキガク) 2010年 1/11号 [雑誌]
コラムに、ヴェーバーのプロ倫について書きました。
菊澤研宗: 戦略の不条理 なぜ合理的な行動は失敗するのか (光文社新書 426)
祝!はやくも増刷
孫子、山本七平、クラウゼヴィッツ、リデルハート、ロンメル、ハンニバル、ナポレオンについて解説し、新しい戦略の哲学、キュービック・グランド・ストラテシー(立体的大戦略)を提唱する。 (★★★★★)
菊澤 研宗: 組織は合理的に失敗する(日経ビジネス人文庫)
もうすぐ発売されます。「文庫化のためのあとがき」をぜひ読んでください。 (★★★★★)
神田 昌典: 10年後あなたの本棚に残るビジネス書100
拙著『組織の不条理』も100に選ばれています。 (★★★★★)
菊澤 研宗: 戦略学―立体的戦略の原理
祝2刷です。
菊澤研宗: 新著『戦略学』ダイヤモンド社
やっと発売されました。私の新しい本です。この本では、世界を物理的世界、心理的世界、知性的世界に分けて考え、従来の戦略論が物理的世界を対象とするものにすぎないこと、また心理的世界を対象としているのが行動行動経済学、さらに知性的世界を対象としているのが取引コスト理論だとし、何よりも企業が生き残るにはこれら三つの世界にアプローチするような立体的大戦略(キュービック・グランド・ストラテジー)が必要だということを説明しています。というのも、ひとつの世界だけを対象にした戦略だけでは、別の二つの世界で変化が起こったとき、淘汰されてしまうからです。
(★★★★★)
菊澤 研宗: なぜ上司とは、かくも理不尽なものなのか (扶桑社新書 16)
新書『命令違反が組織を伸ばす』の現代企業版です。
こちらの方がやさしく書いてあるので、関心のある人はぜひ買ってよんで見てください。その後で、『命令違反』を読むと、分かりやすいかもしれません。 (★★★★★)
菊澤 研宗: 「命令違反」が組織を伸ばす (光文社新書 312)
組織内の人間は、ある程度、失敗することが予測できたとても、そこに行かざるをえないことがある。このような失敗を「不条理な失敗」と呼びたい。このような不条理な失敗を回避する最終解決案は「命令違反」である。命令違反は常に悪しきものではなく、良い命令違反もある。そのような命令違反をも扱う新しいマネージメントが必要であることを、太平洋戦争の日本軍を事例にして説明する。 (★★★★★)
菊沢 研宗: 組織の経済学入門―新制度派経済学アプローチ
祝!5刷です。
最新の私の単著です。
取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論をやさしく解説した本、その他、進化経済学、行動経済学、法と経済学、ゲーム理論にも触れていますので、お買得です。 (★★★★★)
菊澤研宗編著: 組織の経済学―業界分析
現在3刷です。
これは社会人学生とのコラボレイトでできた私菊澤のはじめての編著の本です。
新制度派経済学にもとづいて、メディア産業、化学産業、酒類産業、コンサル業界、ベンチャー・キャピタル、ヘッジファンド・・・・・・・・・・を分析しています。
(★★★★★)
デビッド ヴァイス: Google誕生 —ガレージで生まれたサーチ・モンスター
グーグルには関心をもっています。
Chris Anderson: The Long Tail: Why the Future of Business is Selling Less of More
ローングテールの本です。 (★★★★★)
菅谷 義博: 80対20の法則を覆す ロングテールの法則
ロングテールの法則は話題になっていますが、
私はこの本を未読。
ロングテール戦略行動は心理会計的に説明できると思います。ただし、その行動が成功的かどうかはわかりません。
不条理なコンピュータ研究会: IT失敗学の研究―30のプロジェクト破綻例に学ぶ
私の論稿も載っているので、関心のある方はぜひ読んでみてください。不条理のIT版です。 (★★★★★)
小林 秀雄: モオツァルト・無常という事
小林秀雄のモーツアルトの批評は絶品 (★★★★★)
スティーヴン・レヴィット: ヤバい経済学 ─悪ガキ教授が世の裏側を探検する
シカゴ大学の先生らしい本のようです。
Rose Friedman: 選択の自由―自立社会への挑戦
シカゴ学派の総帥、フリードマンの古典。英知にあふれている。 (★★★★★)
リチャード・H. セイラー: 市場と感情の経済学―「勝者の呪い」はなぜ起こるのか
私の好きなR.セーラーの行動ファイナンス、経済心理学の本です。 (★★★★★)
真壁 昭夫: 最強のファイナンス理論―心理学が解くマーケットの謎
行動ファイナスの入門書です。 (★★★★)
ヨアヒム・ゴールドベルグ: 行動ファイナンス―市場の非合理性を解き明かす新しい金融理論
行動ファイナンスの入門書。非常にやさしく、わかりやすく説明してあります。 (★★★★★)
多田 洋介: 行動経済学入門
経済心理学の入門書。 (★★★★★)
小林 秀之: 「法と経済学」入門
法と経済学分野の定番、非常にわかりやすく説明してあります。 (★★★★★)
宍戸 善一: 法と経済学―企業関連法のミクロ経済学的考察
法という制度を経済学的に分析する分野のやさしい教科書。 (★★★★)
キム・クラーク: デザイン・ルール―モジュール化パワー
モジュール組織論を最初に言い出した本 (★★★★★)
国領 二郎: オープン・アーキテクチャ戦略―ネットワーク時代の協働モデル
気になる本です。 (★★★★★)
青木 昌彦: モジュール化―新しい産業アーキテクチャの本質
この本は、最新の組織デザイン論を扱っている面白い本です。 (★★★★★)
ジェイ・B・バーニー: 企業戦略論【上】基本編 競争優位の構築と持続
バーニーの戦略論も大幅に取引コスト理論やエージェンシー理論を取り入れています。ただ少し、中身がだらだらしている感じです。
デビッド J.コリス=モンゴメリー: 資源ベースの経営戦略論
この本は、戦略の経済学に近く、新制度派の諸理論を取り入れています。モンゴメリーの夫が、リソース・ベイスト・ヴューの開発者の一人、ウエルナー・ワーナフェルトだとは知りませんでした。
オリバー・E. ウィリアムソン: 現代組織論とバーナード
これは、ウィリアムソン編著の論文集です。ここには、オリバー・ハートの論文が入っています。ただし、訳にかなり問題あり。
オリヴァー・イートン・ウィリアムソン: 市場と企業組織
ウイリアムソンの初期の取引コスト理論の翻訳です。 (★★★★★)
Sytse Douma: Economic Approaches to Organizations
これ3版ですが、4版がでているようです。この本は、組織の経済学のやさしい教科書です。ただし、所有権理論が欠如しています。 (★★★★★)
エドワード・P. ラジアー: 人事と組織の経済学
人事に関する経済分析の本です。 (★★★★★)
Eirik G. Furubotn: Institutions And Economic Theory: The Contribution Of The New Institutional Economics (Economics, Cognition, and Society)
この本は新制度派経済学を広く網羅していると思います。筆者はドイツ系の学者です。フルボトンは、所有権理論で有名な人です。 (★★★★★)
Michael C. Jensen: A Theory of the Firm: Governance, Residual Claims, and Organizational Forms
この本は、マイケル・ジェンセンの実証的エージェンシー理論の論文集です。エージェンシー理論によるコーポレート・ガバナンス分析に関心ある人は必読です。
Harold Demsetz: The Organization of Economic Activity
これは、デムゼッツの所有権理論の論文集です。すばらしい論文集です。 (★★★★★)
柳川 範之: 契約と組織の経済学
この本は、所有権理論やエージェンシー理論を中心とする最新の研究を非常にやさしく解説した本であり、初心者でも読みやすくなっています。ただし、取引コスト理論の説明はありません。 (★★★★)
ダグラスC. ノース: 制度・制度変化・経済成果
この本は、所有権理論を歴史に応用し、ノーベル賞を受賞したダグラス・ノースの本で
す。ここでは、制度変化について説明していますが、内容はかなり難解でいくぶんもやもやした感じです。しかし、多くのインプリケーションがありますので、ぜひ読んでみる価値があると思います。
(★★★★★)
デイビッド ベサンコ: 戦略の経済学
この本は、取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論を数学をほとんど使わないで比較的わかりやすく説明し、応用しています。数学を使っていないために、逆にだらだらした感じもしますが、上記の「組織の経済学」と併用するとよいと思います。とくに、この本では、企業の境界問題が充実していると思います。
(★★★★★)
ポール・ミルグロム: 組織の経済学
組織の経済学で最も有名な本です。内容は非常に充実しています。しかし、私の個人的な感想からすると、かなり読みづらい本でもあります。とくに、ミクロ経済学にふれたことのない人には、つらい本かもしれません。みんなで一緒に読むことを勧めます。
(★★★★★)
Jack J. Vromen: Economic Evolution: An Enquiry into the Foundations of New Institutional Economics (Economics As Social Theory)
このブローメンの本は、進化経済学をうまくまとめています。現在、進化経済学の研究は、アルチャンのダーウイン主義、ネルソンーウインターのラマルク主義、進化ゲーム論の三つの方向がありますが、これらをうまくまとめています。しかも、ヨーロッパの研究者らしく私の好きなポパーの進化論的認識論についても言及しています。
(★★★★★)
Richard R. Nelson: Evolutionary Theory of Economic Change (Belknap Press)
この本は進化経済学の原点となる本の一つです。非常に有名な本ですが、いまだ翻日本語に訳されていません。私が留学していたニューヨーク大学スターン経営大学のドクターコースの学生が私に奨めていた本です。この進化論の分野は、非常におもしろいので、今後、もう少し研究する必要があると思っています。
Oliver Hart: Firms, Contracts, and Financial Structures (Clarendon Lectures in Economics)
この本は、オリバー・ハートの有名な所有権理論の本であり、契約理論の原点といわれている本です。やや数学的です。契約理論に関心のある人は、この本を避けて通ることができないでしょう。ハートの顔を写真で見ましたが、とてもスマートな上品な感じがしました。彼によると、この分野は数学的に定式化するのが難しい分野で、かなり苦労しているとコメントしていました。このハートの著書に関して、上記のデムゼッツによる批判的書評もおもしろいので、ぜひ併読を勧めます。
(★★★★★)
John W. Pratt: Principals and Agents
この本の中にアローのエージェンシー理論をまとめた有名な論文"The Economics of Agency"が入っています。この論文で、隠れた知識問題としてのアドバースセレクション現象と隠れた行動問題としてのモラルハザード現象が非常にうまく区別され説明されています。
Michael C. Jensen: A Theory of the Firm: Governance, Residual Claims, and Organizational Forms
この本は、実証的エージェンシー理論に関するジェンセンの論文集です。ジェンセンのエージェンシー理論の論文は、よく知られていますが、日本ではそれほど読まれていないのではないでしょうか。この本もじっくりと読んで見ると、エージェンシー理論によって会計、ファイナンス、組織が幅広く分析できることがわかってきます。
(★★★★★)
Oliver E. Williamson: The Mechanisms of Governance
この本は、取引コスト理論をコーポレート・ガバナンスの問題やコーポレート・ファイナンスに応用した論文集です。この本は、非常にインプリケーションが多い本だと思います。 (★★★★★)
ロナルド・H. コース: 企業・市場・法
この本は、取引コスト理論や所有権理論に関するコースの論文集。1937年に、つまり第二次大戦前に取引コスト理論の論文が発表されていたことに驚かされます。また、「法と経済学」という新分野の先駆けとなった論文「社会的費用の問題」の長さにも驚かされます。読む度に、新しい発見のある素晴らしい本です。数学では表せないコースの英知であふれています。とにかく、時間をかけてじっくり読んでみたい本です。
(★★★★★)
岩井 克人: 会社はこれからどうなるのか
この本は非常にいい本です。一度は読むべきです。 (★★★★★)
小佐野 広: コーポレートガバナンスの経済学―金融契約理論からみた企業論
組織の経済学的な議論がまとまっています。 (★★★★)
菊澤 研宗: 比較コーポレート・ガバナンス論―組織の経済学アプローチ
私の本です。 (★★★★★)
Jonathan P. Charkham: Keeping Good Company: Corporate Governance Ten Years On
チャーカムの有名なガバナンスの本
各国のガバナンス・システムが比較されている。 (★★★★★)
日本人の心を表す表現として「もののあわれ」という言葉がある。われわれは、どうしても「あわれ」に気が取られ、これを悲しみという意味に解釈しがちである。本居宣長の研究をしていた小林秀雄によると、それは、ある人の無償の行動をみたとき、思わず「ああ・・・」と発するようなことだという。私は、これを現代風にいえば、ある人の行動をみて、「すてきだな」、と思うことだと解釈する。
最近の政治家は悪事をしても、選挙で選ばれたからと自己正当化する。そして、選挙で落ちることが、その悪事の「責任」をとることになるという。これは、他律的な考えである。それは他人によって責任を取らされるということだ。
責任とは自ら自律的に行動し、その自由な行為に対して、自ら責任を取ることを意味する。他人に取らされるものではない!
他人に取らされるような責任とは、力学的に動く物質のようなもので、人間的なものではない。
ヘーゲルの観念論的弁証法から、マルクスの唯物論的弁証法、そしてアドルノが否定弁証法を展開する。まだ、ポパーの影響で、私自身は弁証法への疑いは取れない。しかし、このアドルノによる展開は魅力的な流れだ。ここに、アドルノの魅力がある。
テオドール・アドルノは幼いころから天才であった。飛び級で大学に入学している。そのアドルノがなぜ統計学的手法に基づく実証科学の研究を選ばなかったのか。彼は、もともと美学、とくに音楽に興味があり、評論を得意としていた。しかし、アウシュビッツ以後、ユダヤ人である彼は否定弁証法を展開していく。
ポパーは弁証法を論理ではないという。しかし、そうであれば、あの天才アドルノも気が付かないわけがない。アドルノは、カント哲学にも詳しい。なぜアドルはヘーゲル、そして弁証法に進んだのか。謎である。
リーダーとしての気品と怨望
慶応義塾大学 菊澤研宗
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福沢諭吉といえば、慶応義塾大学の創始者として、そして一万円札の顔としても知られている。この福沢をめぐって、これまでいろんな印象がもたれてきた。「実学」を推進する西洋合理主義者。お金儲けやビジネスを推奨する経済合理主義者。いずれにせよ。何か物質的で経済的なものを求めた人物。そういった印象が強いだろう。
ところが、福沢が求めたものはまったく逆であった。彼が求めていたのは、人間としての「気品」であった。晩年書かれた「福翁自伝」の最後に、残る余生でやってみたいことは、全国の男女の気品を徐々に高めて、真の文明の名に恥ずかしくないようにすることだと述べている。
確かに、福沢は日本が西洋文明に追いつくためには、物理学、技術、そして経済学的知識を習得し、それらを発展させる必要があると考えた。しかし、そのような科学的知識を進歩させるには、何よりも個々人の精神的な自律や自由が必要だと考えた。特に、江戸時代の固定的価値観にもとづく身分制度にとらわれない人間としての自律、品格、そして気品を高めることが重要だとみたのである。
そして、そのような人物がリーダーにならなければ、日本人の知識は自由に進歩発展しないと考えたのである。それゆえ、どんなに才知や技量があっても、他律的で気品のない人はリーダーとして世に立つべきではないという。何よりも、リーダーには気品が必要なのだと主張する。
この福沢が最も嫌っていたのは、「怨望(おんぼう)」であった。それは、他人を嫉む心、他人に嫉妬する心である。世の中のほとんどのことがらは、善悪紙一重だという。たとえば、粗野はフランクで率直という意味と紙一重であり、傲慢は勇気と紙一重。ところが、一方的に悪く、生産性がまったくないのが、「怨望」つまり嫉みや嫉妬なのだ。それは、他人を引き下げて自分と平等にする心であり、自分が上がるのではなく他人を不幸にして引き下ろして平均を得ようとする心理である。
福沢諭吉によると、このような人物は品が悪く、人々の進歩を妨げることになる。それゆえ、リーダーとしては失格なのだ。この怨望をいかにして自己統治できるか。これが、リーダーに求められる条件の一つなのである。
グローバル社会のリーダーとフレームワークの神話
慶応義塾大学教授 菊澤研宗
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バブル経済が崩壊しはじめた1991年に、私はニューヨークのマンハッタンにあるニューヨーク大学スターン経営大学院に留学した。当時、米国の経済状態は最悪で、ニューヨークは荒れていた。街のいたるところにホームレスの人たちがいた。
秋学期の大学院の講義が始まる前、夏の短期集中で英会話学校に通った。さすがにニューヨークは国際都市だ。会話学校には、世界中から学生が集まっていた。ロシア人、フランス人、イタリア人、韓国人、中国人、スイス人、スペイン人、イラン人などなど。
私のクラスは、教師がいろんなテーマを与えて議論をさせるものだった。私は英語が得意でないので、会話についていけず、困っていた。もちろん、全員がネイティブではないので、本当に英語がうまいわけではない。
ある日、国際関係に関するテーマがだされた。戦争に関するもので、いつもは大人しいスイス人の女性が激しく議論をしている。驚いた。とくに、ロシア人とは激しい議論をしていた。彼女は英語がうまいわけではないが、スイスがいかに隣国との関係に気を使っているのかが熱く伝わってきた。
当時、私は平和ボケの日本人だったので、それほど隣国を疑う必要はないのではないかと主張した。このとき、彼女の英語はひどかったし、私のリスニング能力もひどかったが、もうそんなことは問題ではなかった。不思議なことに、彼女が熱心に何をいいたいのか、私は彼女の瞳をみてすぐに理解できた。このとき、私は人間というのは共通言語をもたなくても理解できることをはっきりと認識した。
こうした経験をしたので、学会などでときどき有意義な議論をするには、共通の土俵、共通のフレームワークがなければ、有意義な議論などできないと主張する人がいるが、この意見には大反対である。そんなものがなくても議論は十分できるし、相互に理解することもできるし、そうしなければならないのである。というのも、共通のフレームワークがなければ、話しても無駄だという人は、結局、安易に暴力で決着をつけようとするからである。しかし、共通のフレームワークがなければ有意義な議論ができないというのは神話である。それは、暴力を行使する理由には絶対にならない。このことを、グローバル社会に生きるリーダーには、ぜひ心にとどめてほしいものだ。
日本的リーダーの条件としての大和心
慶応義塾大学教授 菊澤研宗
桜の季節である。桜といえば、ソメイヨシノではなく、山桜花。この山桜花にこだわったのは、国学の大家である本居宣長であった。そして、その本居宣長の研究を通して、日本の伝統に迫った人物が、晩年の小林秀雄である。
小林秀雄が本居宣長の研究を通して辿り着いた言葉の一つが「大和心」だった。小林秀雄は、「大和心」という言葉は、昔、絶対に女性が使っていた言葉だと確信していた。そして、この言葉がはじめて登場したのは、学者の妻である赤染衛門の歌であることを突き詰めた。
学者である夫が、当時、子供が生まれて詠んだ歌が、乳もでないような貧相な女が学者の家の乳母になるのは不安だという内容の歌であった。ここで、乳と知識がかけてある。これに対して、妻が「大和心」があれば、乳など出なくても大丈夫と返歌したときに出てきた言葉だという。
当時、最新の科学的知識は中国から入ってきた。そのような科学的知識のことを、当時は「漢心(からごころ)」といった。そして、その反対語が「大和心」だったのである。それは、科学的には説明できないことを意味し、「もののあわれ」を理解する心、人間の誠実さや真摯さなどを理解する心であり、見えないものをみる真心(まごころ)を意味したのである。
今日、人間組織のリーダーの条件として、科学的な分析力や理論的な説明力と応用力が必要だといわれている。確かにそうである。しかし、果たしてそれだけか。小学生6年生の子供も、歳を取った私も論理的に1プラス1は2で同じなのだ。そこに差はまったくない。おそらく私よりもはるかに論理思考のすぐれた若者はたくさんいるだろう。では、歳を取ることに意味はないのか。
リーダーの条件とは、実は経験的に見えるものだけを見る科学的な「漢心」にあるのではなく、誠実さや真摯さといった見えないものまで見通す「大和心」にあるのではないか。そいったリーダーがいれば、悪いことをしてでも業績を高めようとする部下はびくびくし、業績が低くても誠実に正しいことをしようとする部下は生き生きとする組織が形成される。そういったことを考えながら、今年も山桜花を眺め、そして新しい「令和」の時代を迎えたいものだ。
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