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2020年8月14日 (金)

リーダーのミニマ・モラリア1

日本的リーダーの条件としての大和心
慶応義塾大学教授 菊澤研宗

桜の季節である。桜といえば、ソメイヨシノではなく、山桜花。この山桜花にこだわったのは、国学の大家である本居宣長であった。そして、その本居宣長の研究を通して、日本の伝統に迫った人物が、晩年の小林秀雄である。

小林秀雄が本居宣長の研究を通して辿り着いた言葉の一つが「大和心」だった。小林秀雄は、「大和心」という言葉は、昔、絶対に女性が使っていた言葉だと確信していた。そして、この言葉がはじめて登場したのは、学者の妻である赤染衛門の歌であることを突き詰めた。

学者である夫が、当時、子供が生まれて詠んだ歌が、乳もでないような貧相な女が学者の家の乳母になるのは不安だという内容の歌であった。ここで、乳と知識がかけてある。これに対して、妻が「大和心」があれば、乳など出なくても大丈夫と返歌したときに出てきた言葉だという。

当時、最新の科学的知識は中国から入ってきた。そのような科学的知識のことを、当時は「漢心(からごころ)」といった。そして、その反対語が「大和心」だったのである。それは、科学的には説明できないことを意味し、「もののあわれ」を理解する心、人間の誠実さや真摯さなどを理解する心であり、見えないものをみる真心(まごころ)を意味したのである。

今日、人間組織のリーダーの条件として、科学的な分析力や理論的な説明力と応用力が必要だといわれている。確かにそうである。しかし、果たしてそれだけか。小学生6年生の子供も、歳を取った私も論理的に1プラス1は2で同じなのだ。そこに差はまったくない。おそらく私よりもはるかに論理思考のすぐれた若者はたくさんいるだろう。では、歳を取ることに意味はないのか。

リーダーの条件とは、実は経験的に見えるものだけを見る科学的な「漢心」にあるのではなく、誠実さや真摯さといった見えないものまで見通す「大和心」にあるのではないか。そいったリーダーがいれば、悪いことをしてでも業績を高めようとする部下はびくびくし、業績が低くても誠実に正しいことをしようとする部下は生き生きとする組織が形成される。そういったことを考えながら、今年も山桜花を眺め、そして新しい「令和」の時代を迎えたいものだ。

 

 

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