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2016年3月10日 (木)

リーダーになる人の条件

  たくさんの学者が軍部は天皇を手段として利用していたという。確かそう見えるかもしれない。

  しかし、私も防衛大学校に長く教えていたのだが、当時の将軍の文章などを読む機会があり、そして理解できることがあった。当時の高級将校が天皇を単なる手段として見なしていたとは思えないということだ。ものすごく畏敬の念を払っていたし、天皇の権威に受けいれていたのである。

  たとえば、山下将軍。彼はマレーの戦いで大勝利を得た。普通なら、日本に帰国し、天皇に拝謁するのだが、彼は日本に帰国することなく、満州に送り込まれる。そのとき、山下は2.26事件を思いだしている。天皇に嫌われているのだと。彼は、マレーの戦いでも、一度も宮城に足を向けて眠っていない。

  しかし、山下は終戦まじかに、フィリピンに派遣される。これは、ほんとど死に行けという命令である。このとき、山下は中国から一時的に東京に戻ることを許される。そのとき、山下の望んだことは何か。天皇への拝謁だ。 

  山下は、天皇から戦術や戦略について話たいという気持ちは全くなかったのだ。彼は、天皇から「元気」をもらいたかったのだ。この非合理なものがほしかったのだ。そして、念願かなって、天皇に拝謁できた。このとき、山下はこれで「死ねる」と思ったようだ。

  当時の天皇は、物理的生物的観点からすれば、一人の人間であった。その点では、われわれと同じなのだ。しかし、当時の将校は、天皇に対してそんな見方はしていない。もっと非合理なこと(科学的には説明しにくいこと)を天皇に観ていたのだ。日本の天皇の背後にある脈々と続く数千年にわたって受け継がれてきた何かだ。

  戦後、多くの研究者は日本の軍人を批判する。しかし、学ぶべきこともある。彼らは科学的知識をたくさん持っていた。この点でいえば、非常に優秀な将軍ばかりだった。しかし、彼らの優れた点は、実は非合理的なこと(科学では説明できないもの)も観えていたのだ。

 この点を、現代の企業経営者も学んでほしい。科学的経営などは、若者も年寄も差はないのだ。若者と経営者の差は何か。非合理的なものも観えるかどうかのだ。非合理的なことを見ることを、本居宣長や小林秀雄は、「大和心」といったのだ。

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