ウイリアムソンのいう「Remediable」とは何か
これまで、取引コストには2種類あると思ってきた。ひとつは、ある組織的なデザインのもとで、メンバー同士の機会主義が生み出す取引コスト。そして、これを抑止する制度が、ウイリアムソンがいうガバナンス構造であり、ガバナンス・コストである。それは、また静態的取引コストともいえるかもしれない。これについて語っているのが、主にウイリアムソンだと思っていた。
これに対して、ある状態から別の状態へ変化する場合、既存のメンバーを説得する必要があり、そのために発生するコストも取引コストであるといえる。このようなコストについては、主にコースが語っているので、コース的な取引コストだと思っていた。
ところが、ウイリアムソンもこのようなコストについて言及していることが、折谷先生の指摘で分かった。ウイリアムソンは、政府や政治家による所得の再配分問題で、このことを述べている。
もし現存の状態が非効率的で、何らかの政策を展開する場合、実行可能性のある代替案と比較する必要がある。このとき、新しい政策を展開する場合、「デザインによる非効率(コスト)」や「セットアップコスト」が発生する。それでもなおメリットを生み出すような政策案の場合には、それは「remediable(治療可能?)」な政策とし、利益を伴わない場合には「irremediable(治療不可能)と呼んでいる。
つまり、私がこれまで不条理と呼びうる現象が発生しうることを、ウイリアムソンも必ずしも明確ではないが、説明していることが分かった。ウイリアムソンも、たとえ現状が非効率的でもそれを治療できるような代替案がない場合には、それは非効率的でないということを述べているように思える。つまり、私が指摘している合理的失敗(不条理)があることを認めているように思える。
この点について、今後、もう少し調べる必要があると思い、現在、研究中。ウイリアムソンが「remediable(治療可能?)」という用語に関心をもっていることもわかった。気が付かなかった。
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