ポパーとの出会い
私のことを若い時から知っている人は、私が一貫してポパーの批判的合理主義にもとづいて論文や本を書いていること知っている。それは、明示的である場合もあるし、非明示的な場合もある。最近の著書では、露骨に明示的に書いている。
私の先生は、小島三郎先生といい、当時の慶応義塾大学商学部のホープであった。当時、商学部から初めて塾長になるのではないかといわれていた。しかし、学部長を3期務めらている途中、50代の若さで他界された。
小島先生の専門はドイツ経営学方法論であり、はじめはM・ヴェーバーの社会科学方法論を研究され、そしてポパーの科学哲学に出会い、晩年は完全なポパーリアンだった。ドイツ経営学は遅く生まれた学問なので、経済学者から科学ではないのではないかと疑われてきたのだ。
したがって、ドイツ経営学を専攻する場合には、何が科学であり、経営学はそもそも科学なのかあるいは科学ではないのかを分析する必要があったのだ。そのために、科学とは何かに対する答えを探しに、ヴェーバーの社会科学方法論やポパーの科学哲学の研究に進まざるを得なかったわけだ。
私はその小島先生の最後の弟子で、当時、博士課程の学生であったが、先生が慶応病院の病室で死ぬ直後まで、ドイツ語で科学方法論の本を読んでいたを知っている。「菊澤君、外国人と戦うには言語の問題もあるので、相手の10倍勉強しなければならないね」といわれていた。
先生は、いつも「経営学は自分研究できるが、科学方法論は難しいので、大学院では方法論だけやればいい」といわれた。事実、私は科学哲学だけしか研究していなかった。しかし、私は一人だけ経営学者の研究をしていた。
それは、ドイツのハインリッヒ・ニックリッシュだ。当時、神戸大学がニックリッシュ研究の聖地であり、その中心に神戸大学教授市原季一先生がいた。ニックリッシュの組織論は哲学そのものだ。
ニックリシュは著書の中には、彼の考えの基礎がカント哲学にあることを何度もいっている。しかし、小島先生は「あれは違うよ。菊澤君、それを証明すれば、神戸大学の先生たちばびっくりするよ」ということで、ニックリシュの組織論とカント哲学の研究をしていたのだ。
こういう理由で、私の著書には、いまでもカント、ヴェーバー、ポパーが出てくるのだ。もう今は昔のことだが・・・・
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