トヨタのリコール問題をめぐる認識と現実のズレ
トヨタのリコール問題をめぐって、トヨタと米国の間にそれぞれの認識と現実とのズレがあったのではないかと思っている。
つまり、知性的世界での認識と物理的世界での現実のズレだ。
トヨタ自身も米国も、あくまで「トヨタという企業は日本の会社」だという認識があった。しかし、実際には「トヨタという会社は国際的なグラーバルな企業」だったのだ。
トヨタがあまりにも早く世界1になり、急速にグローバル化したために、認識が追いつかったのではないか。こういった認識と現実の違いはよく起こる。野球選手で、頭の中では自分は足が早いという若いときの認識があるが、実際に盗塁してみると、すでに年をとっていて遅くて、アウトになってしまうケースだ。
トヨタは、日本企業の代表としてプライドがあったのだろう。だから、グローバルな批判、とくに米国からの批判に対して、少し抵抗していたのだろう。しかし、トヨタの凄さは、現場がいつでもリコールに対応できるように準備をしていたことだ。だから、リコール後も混乱もなく、スムーズに修理が進んでいるようだ。まさに、オートポエイシスだ。
他方、米国もトヨタを批判し、GMやフォードを・・・という雰囲気はあったかもしれない。しかし、それ以上にトヨタは米国にコミットしており、予想以上にトヨタに関係している米国人が多く、トヨタの損失はそのまま米国人の損失につながることが遅ればせながら、認識された。
この現象からも、物理的世界1と心理的世界2や知性的世界3は異なっていることを再認識できた。
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こんにちは。初めまして。2010年3月に卒業しますが、教授の授業を受けておりました。遠藤正寛教授ゼミに所属していた者です。2010年9月から英リーズ大学院に進学予定です。教授の意見を伺いたくコメントさせて頂きました。The Economist(2010.2.13,p.10)では、『今回のトヨタの問題は日本のコーポレートガバナンスの崩壊を示している』と副題にありました。日独米のコーポレートガバナンスの違いを授業で習い、テストにも出たのを覚えております。現在、トヨタの社外取締役が0名であることや、女性や外国人の採用もないことが記述されていました。トヨタはグローバル企業として、コーポレートガバナンスを変革すべき時期なのでしょうか。菊澤先生はどのようにお考えでしょうか。よろしくお願いいたします。
投稿: 小田亜矢子 | 2010年2月18日 (木) 午後 05時00分
小田さんへ
菊澤です。現在、入学試験中、超多忙なために、返答、遅れました。質問されている問題は、大変、難しい問題です。したがって、私自身、すっきりした答えがありません。日本の企業も悩んでいると思います。私の考えは、以下の通りです。参考書は 菊澤著『比較コーポレート・ガバナンス論』有斐閣。
(Ⅰ)二つのコーポレート・ガバナンスの意味
いま、日吉の1年の経営学を担当しており、1年生にはすでに話をしているのですが、コーポレート・ガバナンス問題には二つの意味があります。
(問題1)正当性の問題(価値の問題)ある企業の行動がある価値観(倫理)に照らして正しいのかどうか。もし正しくないとすると、だれがどういった方法で、企業を統治するか?例:女性差別している企業の行動は正しいかどうか。もし正しくないとすると、だれがどのようにして企業を統治するか?
(問題2)効率性の問題(事実の問題)ある企業は実際に儲かっているかどうか。もし儲かっていないとすれば、だれがどのようにして、企業を統治するのか?例:ある企業経営者は5年間を利益を上げることができず、今年は赤字となってしまった。だれがどのようにしてこの企業を統治するのか?
上記の二つの問題は異なるものです。たとえば、倫理的に正しい行動している企業は赤字で倒産することがあります(GM)。逆に、地雷を作って売っている企業の行動は正しいとはいえませんが、実は儲かっています。
(Ⅱ)日本企業の現状
(1)理想としては企業は常に正しくて(正当で)かつ効率的であるといいと思いますが、いまの日本企業はコーポレート・ガバナンスをめぐって迷っています。現在、日本の会社法では、米国流の委員会設置会社方式(社外取締役必須条件)と伝統的日本流の監査役会設置会社方式を選択できます。
(2)トヨタやキャノンなどは、ご存じの通り、伝統的な日本流のガバナンス方式です。この方式は、社外取締役がいないので、欧米から不透明だとか、わかりにくいとか、批判されています。つまり、正当ではないのではないか?正しくないのではないか?また、女性の取締役の不在や女性従業員も少ないという点で、やはり不平等、差別的で、正しくないのではないか?とも言われています。
(3)ところが、日本では、このような伝統的な方式を取っている会社ほど、とくにトヨタやキャノンは業績がいいのです。日本では、いまのところワーク・アンド・ライフ・バランスに積極的な会社よりも、そうでない会社の方が企業のパフォーマンスに関係する指標は良いようです。
(4)さらに、皮肉なことに、公平で透明性があり、きわめて正しいコーポレート・ガバナンス・システムを形式的に具備していて高く評価されていたGMやエンロンは非効率的でかつ業績が悪く、結局、倒産し、株主や債権者に迷惑をかけています。
(Ⅲ)トヨタの現状
以上のような状況が日本企業の現状です。今回、トヨタは、正当性の観点から批判を受けているようですが、しかし事態の収拾に関して上層部の反応は鈍いものでしたが、現場の反応は思った以上に迅速でスムーズで効率的だったような感じがします。
以上の現状を踏まえると、正当性、正しさという点からすると、トヨタのコーポレート・ガバナンス・システムは正しくないと批判するかもしれませんが、効率性の観点からすると、非効率的なシステムではないかもしれませんね。
(Ⅳ)結 論
今回の問題だけをみて、トヨタを批判するのはあまりに短絡的かもしれませんね。トヨタは他の企業とくらべてIR活動も比較的熱心にやっていると思います。外部の声も社内の声もできるだけ聞こうとしているようにも思えます。
社外取締役がいないとか、WLBに積極的ではないという問題はトヨタにとってはもしかしたら形式的な問題かもしれません(すぐに実行可能かもしれません)。業績が異常に低下し、株価が大暴落すれば、それも考えるでしょう。
つまり、ある程度正しくかつ業績の非常に良かったトヨタのシステムに対して、今回の事件だけで、あまりヒステリックに反応する必要はないと思います。
●
すっきりした答えではないので、さらに質問があれば、してください。質問を通して、私自身の考えも整理することができるかもしれませんね。とりあえず、今回は、ここまで・・・
投稿: 菊澤 | 2010年2月19日 (金) 午後 10時01分