経営理念と業績の関係に関する注意
経営哲学の研究者の間では、経営理念と業績の間の因果関係について実証研究する人々がかなりいる。
統計学を使って、研究が経験科学的であることを正当化することに関心がある人たちもいる。また、この関係を提示すれば、企業人が関心を示すという人もいる。
しかし、この研究は注意すべきだ。私の考えはこうだ。
経営理念が企業の業績に影響を与えるかもしれないが、企業の業績を高めるために、経営理念が必要だとはいえない。
その理由はこうだ。私が最近『戦略の不条理』光文社新書、『戦略学』ダイヤモンド社で議論の基礎としているポパーの多元論的実在論について理解してほしい。
多元論的世界観=世界は以下の三つの世界からなっている。
世界1=物理的世界、物質、肉体の世界
世界2=心理的世界、心の状態の世界
世界3=知識的世界、知識、理念、思想、観念の世界
これら三つの世界は相互に相互作用するが、相互に還元できない世界であり、相互に自律的である。つまり、世界1によって世界2のすべての動きは説明できなし、世界2によって世界3の動きを説明できない。
さらに、三つの世界には階層がある。世界3が最も高次で、世界1が最も低次である。なぜか。カブトムシのような昆虫は物質から構成されているが、心理的世界や知識的世界があるとは限らない。しかし、人間のように世界3つまり知識を保有している場合には、すでにそれを生み出した心理的世界や物理的世界が存在していることが前提なのである。
つまり、世界1が存在するからといって、世界2と世界3が存在する保証はない。しかし、世界3が存在する場合には、すでに世界2と世界1が存在していなければならないのだ。
以上のことを理解すると以下のことが理解できるだろう。
経営理念は世界3の住民である。経営理念があるということは、それに影響を受ける従業員の心理的世界2があり、さらにその心理に影響されて、業績という世界1の結果がうまれてくるのだ。この流れがヴェーバーのプロ倫のロジックである。
しかし、その逆は必ずしも成り立たないのだ。このことにヴェーバー気付いていたのだ。業績は世界1の住民だ。業績が高いからといって、それに影響される心理的世界2があるという保証はない。そして、またそれに影響される世界3としての経営理念があるは言えないし、必要もないのだ。ただ世界1でひたすら業績だけを動物的に肉体を使って追求することはできるのだ。
以上、理念は業績に影響を与える可能性はあるが、その逆はいえない。
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菊澤先生
米岡です。
お疲れ様です。
私は経営理念と業績の関連について研究をしていませんし、先生が書かれたように、「理念は業績に影響を与える可能性はあるが、その逆はいえない。」は、確実には言えないと思います。
その上で質問させて頂きたいのですが、世界1は世界2に影響を与える。更に世界2は世界3に影響を与える。という前提に立ったとき、業績という世界 1は経営者及び従業員に何らかの心理的影響を与えると考えることができると思います(先生は保証はないと言われていますが、直感的には与えると思うのです)。世界2に対して影響を与え、何らかの心理的状態を作り出したとします。
その状況(業績)が連続して発生した場合は、どうでしょうか。世界2への影響が連続して起こることによって、世界3を形成することは無いでしょうか。短期的ではなく、長期的視点での場合です。(稀なケースかもしれませんが)
投稿: 米岡 | 2009年11月29日 (日) 午前 02時57分
米岡様
菊澤です。
コメントありがとうございます。米岡さんのご指摘とおりです。世界1、世界2、世界3は相互に作用しますし、世界1が世界2を作り出し、世界2が世界3を作りますので、業績が心理に影響を与え、心理が理念を生み出すということは可能だと思います。
しかし、私がいいたいことは上記と矛盾しないのです。
「経営理念が浸透している企業」と「その企業業績が高い」という二つの要素の間の相関が高いとします。
このとき、経営理念が浸透している企業があるならば、その企業の業績は高い。これはテストする価値があります。
しかし、企業の業績を高めるためには必ず経営理念の浸透が必要であるという議論は成り立たないということです。
もし世界1から世界2が出現し、さらに世界2から世界3(経営理念の存在とその浸透)が出現する企業があるならば、すでに世界2が存在し、世界1も存在しているので、しかも仮にその経営理念が「倹約」などの用語に関連していれば最終的にあるいはすでに業績がいい可能性は高いと思います。
しかし、業績を高めるためには(世界1)、人間の心理(世界2)を高める必要はないかもしれませんし、理念(世界3)の浸透を必要としないかもしれません。
早くて安く作れる物理的機械設備(世界1)を偶然タイムリーに導入することによって達成できるかもしれないのです。世界2と世界3は不要なのです。
ということで、私の議論は非常に微妙な内容なので、大変申し訳ないのですが、非常にわかりにくいかもしれません。その意味で、米岡さんがいうようによう、どちらともいえるかもしれません。
別の例としては、
人間が生存するために、技術的知識(世界3)をもち、世界2を通して、それを利用し、駆使して生き残ってきた(世界1)かもしれませんが、生き残っている(世界1)昆虫に今後も生き残るために理念や技術(世界)が必ず必要だとはいえないということです。昆虫(世界1しか考えてない人間も同じ)
投稿: 菊澤 | 2009年11月29日 (日) 午前 10時42分
菊澤先生
米岡です。
お疲れ様です。
ご回答有難うございます。
理念(世界3)の浸透を必要としないという説明はよくわかります。
「浸透している必要」は確かにないと思います。
ほんの一部の経営者、従業員に理念が形成されるかもしれませんが、それが企業全体に浸透している必要はないと私も思います。
投稿: 米岡 | 2009年11月29日 (日) 午後 11時26分