O.ウィリアムソン教授のノーベル賞受賞 おめでとう
新制度派経済学、取引コスト経済学の創始者、オリバー・E・ウィリアムソンが2009年度のノーベル経済学賞を受賞した。
これまで新制度派経済学を研究してきた私としては本当にうれしい。本来ならば、彼は、1991年にロナルド・コースがノーベル賞を受賞したときに、同時に彼が受賞してもおかしくなかった。というのも、彼がコースの論文を取り上げ、そこから取引コスト経済学を大きく発展させたからである。その功績は大きいのだ。
しかし、その後、時間がたったので、もしかしたらノーベル賞はもらえないかもしれないなあ~と思っていたが、・・・・良かった。本当に良かった。
●取引コスト理論とは
これまで正当派経済学つまり新古典派経済学では、完全合理的に効用を最大化する人間が仮定され、このような人間観に立って市場の効率性が数学的に説明されてきた。
これに対して、ウィリアムソンは人間は限定合理的であり、すきあらば利己的利益を追求する機会主義的な性格をもつものと仮定した。
そして、このような人間が市場で知らない人々と取引する場合、相互に駆け引きが起こり、多大な取引上の無駄が発生することになる。この取引上の無駄のことを「取引コスト」と呼ぶ。
この取引コストを節約するために、知り合い同士の取引が生まれるということ、つまり組織が形成されると主張したのがウィリアムソンなのである。
この同じ取引コスト節約原理にもとづいて、さまざまな組織のデザインも説明できるし、なぜ企業が垂直統合を行うのかも説明できるのだ。
また、この取引コストが発生するために、個別合理性と全体合理性が一致しないという現象が起こるだ。つまり、現状が非効率なので、社会的にみてより効率的な方向へと変化すればいいのだが、変化するには多くの利害関係者と交渉取引する必要があり、そのために膨大な取引コストが発生する。この取引コストを考えると、非効率的な現状にとどまる方が合理的になるという不条理が起こるのだ。
この取引コスト理論について、関心のある人は、ぜひ拙著を読んでもらいたい。取引コスト理論について、どの本よりも詳しく優しく書いてあるので・・・
amazon.以下の写真をクリリックしてください。
菊澤著『組織は合理的に失敗する』
上記の本は、取引コストが不条理な現象を生み出すことを日本陸軍の事例を用いて説明しています。
菊澤著『組織の経済学入門』
この本は、取引コスト理論の教科書です。
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菊澤先生
ご無沙汰いたしております。
私ごときでは僭越ではございますが、受賞のニュースを聞いて、より世の中にこの理論が知られることが嬉しく思いました。
投稿: Sato | 2009年10月14日 (水) 午前 02時48分
私は農業技術の県職員で
去年から縁あって母校岩手大学で
農業者の戦略作成講座の講師をしています。
ミッドウェイ問題
複数目標のどれが適切かの解決で苦労していました。
一つ目の利害関係者が現場を共有して対話することは
すぐ出たのですが不十分で苦労していました。
先日失敗の本質 戦場のリーダーシップ篇を読んで
二つ目の解決方法がわかりました。
利害関係者が対話にコストがかかることを理解し
対話コストの低減を実行することでした。
失敗の本質の第3篇は
大リーダーで無くて良いので
中小企業の社長や工場長レベルの
失敗の本質を解決して生き残る。
を期待しています。
花巻
根子
投稿: | 2013年1月14日 (月) 午前 12時31分