取引コスト理論をめぐっては、これまでいろんな批判がなされてきた。そのうちの一つが、取引コスト理論では、コストの側面だけが強調され、ベネフィットの側面が無視されているという批判だ。
確かに、この批判はもっともらしいものであり、多くの人はこの見解を支持するだろう。私もそう思う。しかし、この見解を受けれるためには、ベネフィットの側面も考慮することによって、さらに取引コスト理論の説明力が増加することを示す必要があるのだ。コストの側面だけでしか考慮していない取引コスト理論では説明できない現象を、べンフィットを考慮することによって説明できることを証明する必要があるのだ。
このことを怠って、ただ論理的にコストがあれば、対称的にベネフィットもあり、それを考慮すべきだというのでは、数学的論理学的であっても、経験科学的ではないのだ。
ところで、私はある現象を説明するためには、やはり取引コストだけでいいという考えを持っている。それは、企業の垂直的統合という現象だ。
垂直的統合をめぐっては、それが独占化を進める現象なのかどうかが最大の焦点の一つである。もしこの現象を生産効率を高める現象、ベネフィットを高める現象、効率性を高める現象とみなすならば、それは独占化を進展させる現象として、独占禁止法の適用を促すことになるだろう。
ところが、ウリアムソンはこの現象には生産効率やベネフィットはないということ、むしろ効率性の観点からすると、個々の部品供給会社が多数の企業と取引できず、ひとつの企業だけに部品供給することになるので、規模の経済性を失うとした。だから、独占禁止法を適用する必要はないということになる。
ではなぜ垂直統合するのか。それは、ベネフィットはないが、コストが発生するからだというのだ。つまり、企業間で不必要な駆け引きが起こり、不必要な取引コストが異常に高くなるということだ。このコストがあまりにも高い場合には、たとえ生産効率が下がっても、たとえベネフィットを失っても、垂直的に統合することになる。これがウリアムソンの主張である。
ベイネフィット(B>0)の概念を取り入れると、この現象は説明しにくいかもしれない。
また、以上のことから、なぜ私が拙著『戦略学』ダイヤモンド社で、実在世界を三つに区別し、その三つの世界に人間は生きていると仮定して議論したほうがいいとしているのか、理解していただきたい。
近いうちに、このようなキュービックな人間観にもとづく新しい理論の構想をみなさんに紹介したい。私の研究に関心のある人は、すでに『三田商学研究』での論文からその構想に気づいているかもしれませんが・・・・・・