ワークシェアリングの経済分析
不況になると必ず出てくるのが、「ワークシェアリング」だ。これは、ドイツで盛んな不況対策だ。不況になると、特定の人々をレイオフ(解雇)するのではなく、みんなで仕事を分け合って、全体として労働時間を下げ、全体で給与を下げるという対策だ。
ドイツでうまく言っているからといって、日本企業でもというのは、少し危険だ。確かに、ワークシェアリングが有効な企業もあるだろう。しかし、問題点もあることに注意する必要がある。
たとえば、なぜ米国では「ワークシェアリング」が一般的に行われないのか。労働市場の流動性が高い、つまり自由に転職できる米国では、「アドバースセレクション(逆選択)」が発生するからだ。
全体の雇用を維持するために、全員で仕事を分け合い、全員で給与を引き下げるというマネジメントを展開すると、次のように、非効率的な従業員だけが企業に残ってしまうのだ。
(1)能力のある従業員は、このような給与では割安なので、別の企業へと転職する。
(2)能力ない従業員は、この給与でも割高なので、企業に居座る。
(3)したがって、企業にはだめな従業員だけが残る。
これは米国企業に特有と思ってはいけない。日本でも、このような現象が起こる可能性があるのだ。たとえば、日本でも、希望退職制度(はやく止めると退職金が大きい)を採用すると、アドバースセレクションが起こるのだ。
(1)能力のある人は、他でも働けるので、早期に退職して大きな退職金を手にする。
(2)能力のない人は、他では働けないので、居座る。
(3)したがって、早期退職制度にのもとに、能力ない人だけが残る。
また、なぜドイツにワークシェアリングが一般的なのか、その理由も考察すべきである。ドイツでは、レイ・オフ(解雇)をめぐる法律が厳しいのだ。解雇するには、労働者との取引コストが非常に高いのだ。このコストを考えると、ワークシェアリングの方がいいのだ。
さらに、ドイツの組織はメンバーの役割が明確で、硬直的なので、需要の変化に対応して、雇用やレイオフできないのだ。不況のときに、大量にレイオフしないが、好況のときにも大量に雇用しないし、大量生産もしないのだ。お客を待たせるのだ。
では、なぜお客が待つのか?。階級社会だからだ。ベンツを買う人は上流階級で、待たされても待つのだ。日本と違って、VWなどに目移りしないのだ。
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