NHKのカンゴロンゴに登場した「取引コスト」
昨日、NHKのカンゴロンゴを見た。予想以上に大きく「取引コスト」が出てきたので、驚いた。初っ端からだったので、インパクトがあった。
しかし、事例が少なかったので、「取引コスト」の意味やその応用の広さについては十分理解されなかったかもしれない。しかし、「取引コスト」という概念がテレビに出たことは十分に意義があったと思う。
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*「取引コスト」=人間は不完全に合理的なので、人間同士が交渉したり、取引したりする際にだまされないように、互いに不必要で無駄な駆け引きを展開する。このような取引上の無駄のことを取引コストという。このようなコストは、会計上に表れないという意味で見えないコストである。
*例題=いまある日本のメーカーが部品を調達しようとしている。いつもお付き合いしている日本の部品供給会社は部品1個1000円で提供してくれる。しかし、ある日、アジアのまったく知らない未知の部品会社から部品1個800円で提供できるというメールがきたとしよう。しかも、交渉次第ではそれ以下でもいいとしている。あなたは、どちらの会社と取引するか。
*解答=いつもお付き合いしている日本企業。理由、未知の企業との取引コストが高く、それを考慮にいれると、日本企業との取引の方が効率的だから。
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この番組では、仕事とは相手にあるいは誰かに喜んでもらうことをすることだというようなことを言っていた。決して、たくさん給与をもらうことや自分の目的を達成することではないといっていたが、ここは論争的な点だ。
標準的な経済学、つまり新古典派経済学では、ひとりひとりが利己的に行動することによって、効率的に資源が配分され利用され、社会全体が豊かになるというロジックなのだ。つまり、より多くの所得を目指したり、自分の欲望を追求することが社会のためにもなるのだ。
しかし、それは人間が完全合理的で「取引コスト」がゼロのときだ。人間は限定合理的で人間同士の取引には「取引コスト」が発生する。それゆえ、今回のカンゴロンゴで述べられたように、相手のことを考えて働くことが重要なのかもしれない。
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菊澤先生
本年もよろしくお願いいたします。
「利他性」というキーワードに私も非常に興味を持っております。
行動経済学においても選別的利他性が論じられていますが、消費者の利己的な行動のみではなく利他的な判断による「不買行動」なども世の中にあると思われます。
茂木健一郎氏のブログに「社会的動物である人間は、
『他人のため』に何かをすること自体を喜びとするように脳の報酬系ができあがっている。と書かれていますが、人間の本能として「利他性」が備わっているのかも知れません。
しかし、現実社会では、個人としては社会的要請や周囲の雰囲気から利己的な価値判断に基づく意思決定をしなければならない状況もあると感じます。
「バカの壁」というものも、利他的な気持ちを抑えて利己的に振舞うことによる自己防衛的な人間の意思決定の結果生まれるものなのでは・・とおぼろげながらに感じます。
最近私は、社会科学的に「利他性」を説明することを試みたいと思い、そのような研究してみたいと思っています。
投稿: Sato | 2009年1月12日 (月) 午後 04時48分
sato様
コメント、ありがとうございます。
「利他性」の研究はおもしろいと思います。
行動経済学では、とくにこの利他性に注目しています。
私も行動経済学的に利他性を研究していましたが、最近は利他性をめぐって経験科学ではなく、哲学的に接近してみたいと思うようになりました。
*Popperによると、経験科学は経験によって反証可能な言明を扱う学問、経験ではなく、論理整合性で批判可能な議論するのが哲学、どちらも有意味。
近いうちに、その意味を紹介したいと思っています。今年もよろしくお願いします。
投稿: 菊澤 | 2009年1月14日 (水) 午前 10時19分