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2009年1月31日 (土)

CGSが基礎とするポパーの世界観NO2

拙著『戦略学』ダイヤモンド社で展開した新しい戦略の哲学が基礎とするポパーの世界観のパート2を開示します。関心のある人はぜひ理解してほしいと思います。

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3つの世界の相互作用

ポパーは、椅子、机、身体などの目に見える物理的世界あるいは物理的状態の世界を「世界1」と呼び、人間の主観的心理の世界あるいは心の状態の世界を「世界2」と呼び、さらに知識、情報、権利、価値など五感ではなく、知性によって把握できる世界を「世界3」と呼び、多元的実在論を主張しはじめたのです。

(物理的世界1)椅子、机、身体などの物理的世界

(心理的世界2)人間の心理、心的状態の世界

(知性的世界3)知識、理論内容、権利、情報など人間の知性で把握できる世界

ポパーによると、物理的世界、心理的世界、知性的世界の三つの世界はそれぞれ互に相互作用していると主張します。知性的世界は、心理的世界を通してのみ、物理的世界に作用することができます。つまり、物理的世界と知性的世界は、相互に直接的に作用することはできないのです。逆に、物理的世界も心理的世界を介して知性的世界に作用することができます。

たとえば、「爆弾の作り方」という知性的世界上の住民である知識はネット上で流され、それが心理的世界である心的状態の世界を通して理解され、物理的物体として爆弾が製造され、物理的世界の実在を破壊することになります。

また、書物はそれ自体紙からなる物理的物体として物理的世界の住民ですが、その内容は知性的世界の住民であり、われわれ人間の心理的世界を通して、その本の内容は理解されることになります。

このうち、知性的世界から心理的世界への反作用は、とくに重要なものです。われわれ人間の心理や自我は、この知性的世界なくして存在できないものです。人間の心は、この知性的世界と結びついているのです。人間の合理性や批判的思考や自己批判的思考とわれわれの心理的状態やわれわれの物理的肉体的行動は、知性的世界との相互作用の結果なのです。

人間の知的成長は、すべてのこの知性的世界のおかげなのです。われわれが生み出す製品やわれわれが作りだす芸術作品と、われわれの心理状態との関係、作品がわれわれに及ぼす反作用は、すべてこの知性的世界のおかげなのです。

自己超越

また、ここで説明しているポパーの多元的世界観では、物理的世界と心理的世界と知性的世界は区別されるので、人間の才能や天賦そしてパーソナリティが人間の行動をすべて決定するのではないことを意味します。つまり、人間の能力や才能が結果の良し悪しを決定するわけではないということです。

結果の良し悪しは、実は人間の心理と人間が生み出した作品や知識などの知性的世界とのやり取りに、そしてこの知性的世界がもたらす人間心理への反作用やフィードバックに、それゆえわれわれ人間が行ったことに対するわれわれ自身による批判によって増幅できるフィードバックにすべてはかかっているのです。

したがって、このような作用反作用によって、あるいはこのようなフィードバックによって、われわれは自分の先験的に備わった才能や能力を超越することができる可能性があるのです。逆にいえば、いくら才能をもっていても、この相互作用を利用しない人は才能を生かせないわけです。人間組織も同じです。いくら能力のある人々が集まっていても、知性的世界との相互作用のない人間組織は個々のメンバーの才能を生かせません。

われわれは自分の仕事を客観的に、それゆえ批判的に調べてみようとする試みによって自己を超越できるのです。われわれの行動とその客観的成果との相互作用を通じて、あるいは自分の仕事をよりよく行おうとする試みによって、人間は自分の才能を越えることができるのです。

人間は知性的世界と相互作用することによってのみ、心理的世界を成長でき、それが自我になるわけです。知性的世界と心理的世界と間の批判的な相互作用関係が厳しければ厳しいほど、知性的世界での問題は発見されやすく、そしてまたそれを克服しようとする機会も増えることになります。それゆえ、より人間は成長する可能性が高まることになるわけです。

このようなポパーの多元論的実在論にもとづいて、物理的世界のみならず、われわれの心理的世界、そして知識などの人間の知性によって把握されうる知性的世界が並存していることを十分理解する必要があると思います。

とくに、現代産業社会では、これら三つの世界の実在性を前提として各企業がどのようにして戦略的にアプローチを展開して行くのかが、非常に重要な戦略的課題になるように思われます。これを無視するものは、これら三つの世界で変化が起こったとき、淘汰の危機にさらされることになるのです。

つまり、ひとつの世界だけに合理的に適応すると他の世界の変化によって淘汰されてしまうのです。この現象を私は「戦略の不条理」と呼んでいます。

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コメント

菊澤先生

>知性的世界は、心理的世界を通してのみ、物理的世界に作用することができます。

この言葉に大変興味を持ちました。
企業の戦略を考えますと、知性的世界として経営状態を財務数値で把握します。そして、経営目標としてやはり財務的数値に基づく指標を掲げます。しかし、そのまま物理的世界のアクションへつながるかと言いますと、なかなか上手く適用できない場合もあります。
そこに、経営者の心理を通じて「覚悟」を決めて経営施策を選択し、指示を出し、行動をするという流れが思い浮かびました。

私もコンサルタントの経験がありますが、やはりコンサルタントはその会社の経営者の代わりにはなれないと感じました。「当事者」としての経営者の責任と覚悟が企業戦略には必要な要素なのだということが、この言葉から理解できた気が致します。

来週、丸の内で先生の講義を受講できることを心より楽しみにしております。

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