慶応大学菊澤ゼミナールHP

私の趣味

私の著書

新制度派経済学と限定合理アプローチの本

経営哲学学会HP

« 試験と教科書とコピー | トップページ | ここ数日いろんなことがあった »

2009年1月18日 (日)

CGSが基礎とするポパーの世界観NO1

 拙著『戦略学』で展開したキュービック・グランド・ストラテジー(立体的大戦略)が基礎としているのは、科学哲学者K・R・ポパーの多元的世界観である。この世界観がわかりにくいという声があるので、これから数回に分けてこのブログでも説明してみたい。

_________________________________________________________________

 ポパーは、二〇世紀初頭にウィーンで科学的知識の発見に至る真なる論理的プロセスの研究をしていました。そして、最終的に科学的発見に至る真なる論理的プロセスは存在しないと主張し、新しい世界観にたどり着きました。

当時、科学的知識発見の論理として注目されていたのは、以下の二つのプロセスでした。

(1)  帰納主義:物理的世界に対して、人間の五感で感じられる観察データをたくさん集めることによって帰納的に普遍的な科学的知識に至るプロセスが存在するという説。例えば、たくさんの黒いカラスを観察することによって帰納的に「すべてのカラスは黒い」という普遍的な命題をえることができるという説。

(2)  心理主義:心理的世界に対して、科学的知識発見に至る心理的プロセスが存在するという説。たとえば、アルバート・アインシュタインの心理プロセスを分析して行けば、相対性理論を導くことができるという説。 

これらの意見に対して、ポパーはいずれのプロセスにも真なる発見の論理は存在しないと主張し、そこには偶然、論理の飛躍、直観が必ず介在すると主張しました。

たとえば、「すべてのカラスは黒い」という普遍言明(時空間に制限のない言明)を観察言明(時空間が決定されている言明)から論理的に導くことはできないのです。この時空間に制限されていない普遍言明を観察言明から導くためには、あらゆる場所のしかもあらゆる時間に存在しているすべてのカラスを観察して明文化する必要があり、それは無限の数のカラスを観察することを意味するので、原理的に不可能なのです。

また、たとえ観察された1000羽のカラスが黒くても1001羽目のカラスは白いかもしれないという論理的可能性が残ります。同様に、10万羽のカラスを観察して黒くても常に10万1羽目はなお白いかもしれないという論理的可能性は残るのです。その論理的可能性を無視して「すべてのカラスは黒い」という命題を導出するためには、「論理の飛躍」が必要なのです。したがって、観察言明から普遍言明に至る発見の論理は存在しないのです。換言すると、物理的世界と理論内容の世界は一致しないのです。

 同様に、いくらアインシュタインの心理的な思考プロセスをこと細かに分析しても相対性理論の内容それ自体を説明することはできません。アインシュタインですら、自分の理論によってまさか原子爆弾が製造可能だとは、心にも思っていなかったはずです。つまり、心の状態の世界と理論の内容の世界は異なっているのです。

以上のような科学的発見の論理の研究を進めている過程で、ポパーは理論内容の世界と物理的世界、そして心理的世界は異なる世界であることに気づいたのです。そして、彼は、以下のように、椅子、机、身体などの目に見える物理的世界あるいは物理的状態の世界を「世界1」と呼び、人間の主観的心理の世界あるいは心の状態の世界を「世界2」と呼び、さらに知識、情報、権利、価値など五感ではなく、知性によって把握できる世界を「世界3」と呼び、多元的実在論を主張しはじめたのです。

(物理的世界1)椅子、机、身体などの物理的世界

(心理的世界2)人間の心理、心的状態の世界

(知性的世界3)知識、理論内容、権利など人間の知性で把握できる世界

« 試験と教科書とコピー | トップページ | ここ数日いろんなことがあった »

11)戦略学(CGS)」カテゴリの記事

コメント

菊澤先生

先日のゼミの打ち上げでは、酔っ払っていたので、つい色々と無茶な提案をしてしまいました。私のようなものの意見を参考にしていたき、ありがとうございます。ブログを見ると、さっそくCGSのカテゴリーが出来ていて、世の中にCGSが広まっていくといいなと思いました。

個人的にはビジネス書の分野でもCGSは広まって行くんではないかと思いました。本屋に行くと様々なビジネスの実務に関する本が売っています。接客や販売のマニュアル。営業のための論理的提案方法や心理的説得術のハウツー。リーダーシップや人材管理に関わる方法など。このような分野や実務レベルでも、CGSは有効だと考えます。特に、論理的提案方法や心理的説得術は人気の分野です。そこに、知性的世界と心理的世界を扱うCGSが入り込む余地があると思います。

これらの本を読むと大抵、三つの世界の話がゴッチャに語られていています。つまり菊澤先生の本のように三つの世界の区別や、時系列的な戦略の展開か整理されておらず、経験則に従って説明されています。なので今まで、整理されてこなかった実務レベルの戦略をCGSで整理しなおせば、一つの戦略の体系として読者に示せるのではないかと思いました。しかし、それは先生のような学者の方の仕事ではないので、誰かが一冊買いてくれればいいのですが・・・。

あと思ったのですが、私はネットでCGSが広まればいいなと思うと同時に、やはり所有権を明確化することは大切だと思いました。確かにネットワーク外部性も大事ですが、他人の意見を自分の物のように主張する輩もいますので・・・。IBMがマイクロソフトに軒を貸して母屋を取られるようなことになったのは有名ですが、オープン化にも戦略がいるようですね(鈴木さんの論文は、その点を分析されていたんでしょう)。

あまり文章が纏まっていなくて、すいません。何か先生のお役に立てば幸いです。私も実は風邪をひいてしましました。先生に関しましては、ご多忙の折、ご自愛ください。

三谷君へ
菊澤です。

コメントありがとう。
体調が悪くて、コメント遅れました。

三谷君はアイディアマンですね。僕以上にいろんなアイデアをもっていて、おもしろいですね。今後もいろいろとコメントを書き込んでください。良いアイディアはどんどん取り入れていきます。

コメントを書く

コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: CGSが基礎とするポパーの世界観NO1:

« 試験と教科書とコピー | トップページ | ここ数日いろんなことがあった »

2021年8月
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31