『戦略学』における心理的世界と知性的世界の違い
拙著『戦略学』の基礎となっている多元的世界観に関して、多くの人々が心理的世界と知性的世界の違いがわかりにくいのではないだろうか。ここでは、「違う」「異なる」ということだけを証明してみよう。
知性的世界の住民代表として「普遍的理論」を取り上げよう。普遍的理論とは、時間と空間とは無関係に成り立つ言明のことである。たとえば、以下のような言明のことだ。
「すべてのカラスは黒い」
この言明は知性的世界の住民である。この言明は、われわれの人間の心理や五感つまり心理的世界に還元できないし、同様に物理的世界へと還元することもできない。つまり、この普遍言明は完全に経験的に実証できないのだ。
なぜなら、このような普遍的言明から、以下のように、無数の言明が導出され、それらを有限な能力しかもたない人間が、すべて心理的に感じかつ物理的世界の事象と対応させることができないからである。
「a1日*時*分に場所b1にいるカラスは黒い」
「a2日*時*分に場所b2にいるカラスは黒い」
「a3日*時*分に場所b3にいるカラスは黒い」
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逆にいうと、どれだけ「たくさんのカラスを観察してそれが黒く」ても、「すべてのカラスは黒い」とはいえないのだ。つまり、物理的世界や心理的世界を単純に反映したものが知性的世界ではないのだ。
以上のことから、知性的世界の住民である「知識」とわれわれの「心理的事実あるいは物理的経験や事実」とは一致しないのだ。
したがって、知性的世界と心理的世界、そして物理的世界は同じではないのだ。
科学哲学的に言えば、「帰納法」というものが成立しないということは、物理的心理的世界と知性的世界は違うこということだ。
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