第3の不条理
これまで不条理現象の研究をしてきたが、今回、第3の不条理現象を見出したので、紹介したい。
(1)拙著『組織の不条理』ダイヤモンド社では、実は不条理現象が類型化されていない。新制度派経済学にもとづいて合理的不正や合理的非効率的な現象のことを不条理な現象であるとし、それがどのようにして発生するのかを説明した。
(2)拙著『命令違反が組織を伸ばす』光文社新書では、以下の二つの不条理現象が存在することを類型化してみた。
●第一に、「効率性」と「正当性」の不一致が生み出す不条理現象
われわれ限定合理的な人間は、正当性をすててまで効率性を合理的に追求する場合がある。このとき、合理的不正という不条理が発生する。
●第二に、全体合理性と個別合理性の不一致が生み出す不条理現象
われわれ限定合理的な人間は、全体合理性を棄てて個別合理性を追求する場合がある。この場合、合理的不正や合理的非効率という不条理が起る。
(3)そして、今回、もうひとつ不条理のパターンがあることに気づいた。
●第三に、短期的合理性と長期的合理性の不一致が生み出す不条理現象
われわれ限定合理的人間は、長期的合理性をすてて短期的合理性を追求する場合がある。このとき、合理的非効率や合理的不正という不条理が発生することになる。
たとえば、ドイツのトップマネジメント組織は資本家代表と労働者代表から構成されている。これは共同決定法という法律があるからだ。ここで、資本家には定年はないが、労働者には定年がある。いま二つのプロジェクトがあり、ひとつは短期的に小さい利益を生み出すものとし、もう一つは長期的には非常に大きな利益をもたらすものだとする。ここで、もし労働者の意見が強いならば、不条理が発生する。つまり、短期的で小さなプロジェクトが合理的に選択されることになる。というのも、労働者代表には定年があるので、近視眼的になるのだ。これは、合理的非効率な現象それゆえ不条理現象であるといえるだろう。
以上のように、不条理現象は原理的に上記の三つのパターンがあるようだ。今後も、別の不条理のパターンがあるかもしれないので、さらに研究を進めたいと思います。
« 「組織の不条理」と「命令違反」のその後 | トップページ | なぜ上司とはかくも理不尽な »
「2)不条理の経済学」カテゴリの記事
- 拙著『改革の不条理』に関する記事の紹介(2018.10.17)
- 働き方改革の不条理(2017.05.10)
- 人間に関する研究と不条理(2017.05.09)
- 連帯責任制度の功罪:不条理な制度(2016.10.10)
- 派閥をめぐる評価の不思議(2011.08.07)
「第3の不条理」は銀行の営業マンに顕著になりますね。たとえそれが不良債権になろうとも目先手数料が稼げれば、無理やり貸し付ける銀行の姿勢そのものです。と書いて、でも銀行のトップも目先の利益を追いかけているし、投資家も目先の株価の値上がりを追いかけている。「長期的には非常に大きな利益」ってだれが選択するのかわからなくなりました。
投稿: fuji | 2008年4月25日 (金) 午後 09時16分
fuji様
コメントありがとうございます。
第三の不条理の事例、わかりやすくていいですね。結局、みんなが短期的に合理的に行動して全体経済が破滅に向かうということですね。
実は、囚人のジレンマも不条理な現象の一つなんですね。ひとり一人は完全に合理的に行動しているのですが、全体として最悪になるというケースです。
第三の不条理はこういったことだと思います。
投稿: 菊澤 | 2008年4月26日 (土) 午後 12時43分
菊澤先生
とてもわかりやすい分類ですね。
やはり事例として真っ先に思いつくのは、成果主義的な制度が悪く働く場合ですね。
半年や4半期という短い期間での成果が必須となると、大きなものを狙いに行くことが難しくなりますね。
成果主義とは、同一組織内の相対的な成果である時、一番簡単な成果は、相対的に身内より有利になること。そうすると、内向きな非生産的なモラルハザードを起こすかも知れませんね。
投稿: Sato | 2008年4月26日 (土) 午後 04時22分
sato様
菊澤です。
コメントありがとうございます。
上記の成果主義制度の事例も面白いですね。このような制度は、確かに不条理を生み出す可能生性がありますね。やはり、第3の不条理現象もたくさんありそうですね。
投稿: 菊澤 | 2008年4月27日 (日) 午前 12時31分