野中先生からの知的刺激
いまから2年前に、母校慶応義塾大学にもどってきたときに驚いたことがある。学生の「知識レベル」が下がっているように思えたことだ。
知識レベルが下がっているという意味は、知的能力が下がっているということではなく、(むしろこの点では、私の時代よりも偏差値もかなりよくなっているのではないかと思う。)経営学に関する新しい知識を吸収していないということだ。
世間で有名な経営理論についてあまり知らず、昔の理論や怪しげな知識しかしらないということだ。この点は、大学という世界は知識に関して本当に閉鎖的な世界だと思う。
どのような教育体制になっていたのかわからないが、日本を代表するといいたい慶応義塾大学の学生が、こんな経営理論もしらないのか!、とゼミの学生と話すとよく思ったことがある。
その例の一つが、ナレッジマネジメントで世界的に有名な野中先生のことだ。なぜか、これまで慶応では教える先生がいなかったせいか、ナレッジマネジメントは十分に浸透していなかった感じがする。
経営学の学説史に登場する唯一の日本人であり、理論だ。いまでは、米国だけではなく、中国でも、ドイツでも野中のナレッジマネジメントはよく知られており、大学では教えられている。
その世界的に有名なナレッジマネジメントが、世間では(社会人に)知られており、常識でもあるが、これまで慶応では世間ほど浸透していなかったように思う。おそらく、残念ながら、彼らは社会にでてから知ることになるのだろう。
しかし、野中先生はナレッジマネジメントだけではなく、超ベストセラー「失敗の本質」でも有名だ。むしろ、この本について知っている人が多いかもしれない。
実は、野中先生が昔防衛大の教官だったので、私は偶然とあこがれもあって防衛大の教官になった。ちょうど入れ違いに、野中先生は一橋大に移られた。また、名著「失敗の本質」にあこがれて「組織の不条理」を書いた。
さて、その野中先生もかなり年を取られた。しかし、先週、野中先生とお会いして、驚いた。まだまだ非常にお元気そうだった。
「とにかくもうお金はいいんだよ。お金は関係ないんだ。いっしょに共同研究したいね。僕は共同研究が好きなんだ。そこから知の創造が起るんだ」といわれ、その果てしなき知識欲にいたく感動した。
私も、いつか野中先生のように、「貨幣の限界効用逓減説」を実証するような存在になりたいと思った。
残念ながら、私はいまだ貨幣の限界効用逓増状態の人間なのだ。
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9月21日のログに一度だけコメントを付けさせていただいた者です。野中先生とのスーパーコラボには大いに期待しております。一方で、個人的にはナレッジマネジメントの世界に抽象的な印象が拭えず、これまで悶々としてきておりました。
いみじくも菊澤先生が「失敗の本質」と「組織の不条理」(どちらも大好きですが。。。)の相違について、少し前のログで指摘されておられましたが、あのお話はそんな私の腹に落ちました。
経済学ベースでスパッと切れる菊澤理論と野中理論のserendipityな出会いにより、あらたな経営学理論を生むのではないか。。。そんな期待をしています。是非とも頑張ってください。
投稿: 教授経験のある実務家 | 2008年3月21日 (金) 午後 10時58分
教授経験のある実務家 様
菊澤です。
コメントありがとうございます。このような過大な期待をしていただけることに、とても感謝しております。今後、どうなるかわかりませんが、知の創造に向うように頑張りたいと思います。
投稿: 菊澤 | 2008年3月22日 (土) 午前 09時02分