新著書『組織の経済学入門ー新制度派経済学アプローチ』の魅力について
新著書『組織の経済学入門ー新制度派経済学アプローチ』有斐閣の魅力について、筆者からコメントしておきたい。アマゾンで書くべきかな?
(1)多くの人たちが、ミルグロム=ロバーツの『組織の経済学』を購入しており、この分野は非常に人気がある。しかし、本当にミルグロム=ロバーツの本を読みこなしている人はどれだけいるだろうか。少し疑問?懐疑的?
本音をいうと、私自身、この本をはじめから終わりまで、一貫して通して読んだことはない。この本を通して読むのは、大変なことだ。私の場合、この本をいつも辞書的に利用している。つまり、必要なときに、必要な部分・章だけを読むという方法だ。この方法で、もう80%以上は読んでいる。
それから、この本はあくまでミルグロム=ロバーツの「組織の経済学」であって、これは偏見だが、一般にいわれている組織の経済学の内容とはいくぶん異なっているようにも思う。つまり、この分野で有名なウイリアムソンの取引コスト理論の説明、ジェンセン=メックリングのエージェンシー理論の説明、デムゼッツの所有権理論の忠実な説明は非常に少ない。あくまで、彼らの固有の理論の説明が多いという印象だ。
以上のような意味で、私の書いた本『組織の経済学入門』は、どちらかというと、できるだけ忠実に、この分野で有名なウイリアムソンの取引コスト理論の説明、ジェンセン=メックリングのエージェンシー理論の説明、デムゼッツの所有権理論の説明をしたつもりだ。しかも、非常に優しく。
以上の点が、拙著のウリだ。だから、ミルグロム=ロバーツの本とは別に買って読んでみてほしい。
(2)拙著のもう一つのウリは、オリバーハートの所有権理論・契約理論の簡単な数学モデルを紹介している点だ。この部分だけ、数学的になっている。多くの人たちが、オリバーハートの契約理論に関心をもっているが、彼の本はまだ翻訳されていない。そこで、彼の簡単なモデルだけに関心をもっている人たちのために、ハートの数学モデルを紹介した。この点は、拙著のウリの一つだと思う。
(3)同様に、ジェンセン=メックリングのエージェンシー理論の数理モデルについても、彼らの論文が40ページ以上なので、なかなか読むのが大変なので、背著ではそのエッセンスを簡単に数学的に説明しているので、ぜひ一読お願いしたい。
(4)私自身もそうだったのだが、ゼミで利用するための、取引コスト理論やエージェンシー理論、所有権理論についてやさしく説明してある日本の文献がほとんどない。この意味で、拙著はお勧めとなる。むしろ、ゼミで使ういい「組織の経済学入門」の本がないので、自分で書いてしまったというわけである。
私の場合、何度かミルグロム=ロバーツの本を使ったことがあるのだが、私の教え方も悪いせいか、いまいちゼミは盛り上がらなかった。
以上、関心があれば、ぜひ一度拙著『組織の経済学入門』有斐閣2300円を試してみてください。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4641162778/ref=pd_rhf_p_2/250-8250760-0785039?ie=UTF8
姉妹品として以下の本もあります。この本の魅力については、次に説明します。
http://www.amazon.co.jp/gp/product/4502657301/ref=pd_bxgy_b_text_b/250-8250760-0785039
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fujiです。質問させてください。
取引コスト理論で「不条理な現象」という概念がでてきますがこれは「合成の誤謬」とは別物なのでしょうか?
(何だこの質問は、と思われるかも知れませんが、法学部出身で経済学も勉強し始めているのですが、体系的に勉強したことがないものでよろしくお願いします)。
それと提案ですが私の様な素人の部外者向けにゼミ生の方に練習問題の回答を書き込むようにされては如何でしょうか。
投稿: fuji | 2006年11月23日 (木) 午後 02時37分
菊澤です。
大変興味深いを質問をして頂き、感謝しております。
この点は、さらに研究する必要がある点だと思いました。しかし、「合成の誤謬」と私のいう「不条理現象」は、必ずしも同じではありません。
「合成の誤謬」=個々人が合理的に行動しても全体として合成すると合理的にならない。
例:パレードを見るのに、一人の人がつま先立ちすると、よく見えるが、みんながつま先立ちすると、よく見えないということだと思います。
「不条理現象」=この現象は、個と全体の関係でも起りますが、個と個の間にも起ります。つまり、以下の例のように、合成とは必ずしも関係ない現象です。
例、同じ製品を作っている製造業A社とB社があり、異なる生産システムSaとSbを採用しているとします。
しかも、その生産システムに依存して、B社の生産・販売・売上・利益が明らかに高いとしましょう。
A社は、B社の生産システムSbを模倣でき、技術的に採用できるものとします。
しかし、A社が生産システムSaからB社の生産システムSbへ移行するには、様々なチェンジング・コスト(取引コスト)が発生します。(組織変革したり、長老従業員が反対するかもしれません。また、レイオフしたり、増員したりで面倒なコスト発生。)
このコストがあまりにも大きい場合、A社は現状がB社よりも明らかに非効率であることをわかっていても、現状を維持することが合理的という判断をする「不条理に陥る」ことになります。
これが「不条理現象」です。
限定合理性、取引コストの世界では、
全体と個だけではなく、個と個、効率性と正当性と合理性がすべて不一致になる可能性があります。見えない取引コストが存在するので、よりよい方向・状態に移行できないのです。
ご提案の件
「それと提案ですが私の様な素人の部外者向けにゼミ生の方に練習問題の回答を書き込むようにされては如何でしょうか。」
ご提案ありがとうございます。
ご提案、検討させていただきます。ただし、最近、学生も用心深くて、なかなか掲示板等に書き込みをしなくなり、主にゼミのメーリング・リストでの議論が多くなっています。
もう一点、私自身が仕事に追われて、回答の添削をする時間がないかもしれないという不安です。現在、光文社新書の原稿(このブログから削除しましたが、命令違反のマネジメントというテーマについての本)、その他の本の執筆に追われており、現在、全く時間がないハードな状態にあります。
しかし、努力はしてみたいと思います。
もう少し、お時間をください。
投稿: 菊澤 | 2006年11月23日 (木) 午後 07時34分
早速のご解説ありがとうございます。不条理現象は取引コストに視点をおかれている訳ですね。
>光文社新書の原稿(このブログから削除しまし
>たが、命令違反のマネジメントというテーマにつ
>いての本)
を楽しみにしたいので提案の件はとりあえずあきらめます(笑)。
投稿: fuji | 2006年11月24日 (金) 午前 07時21分