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2006年4月23日 (日)

菊澤研宗著「日米独組織の経済分析」文眞堂

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本書は、組織の経済学理論にもとづいて、日米独の経営組織を比較制度分析したものです。

 第一部では、最近、大学レベルで流行っている組織の経済学理論あるいは新制度派経済学を数学を一切に用いずに非常にやさしく説明してあります。取引コスト理論、エージェンシー理論、所有権理論に関心がある人は、一度読んでみてください。

 組織の経済学のテキストとしてミルグラムとロバーツの「組織の経済学」という良書もありますが、初心者にはこの本はかなりレベルが高く、読みづらいと思います。

 第二部では、組織の経済理論を用いて、日米独の企業組織を比較分析しました。これまで、比較経営の名の下にいくつかの本が出版されていますが、いずれも理論的ではないように思います。ここでは、理論的に比較分析しています。

 日米独の企業組織をめぐる理論的分析に関心のある人は是非一度本書を読んでみて頂きたいと思います。
以下が序論です。
**************************

1.本書の目的
これまで、経済学では新古典派経済学によって説明される市場経済システムが最も効率的な資源配分システムであり、それが目標とされるべき唯一の普遍妥当な経済システムと考えられてきた。しかも、この経済システムの近似とみなされるアメリカ経済は、第二次大戦後、最も繁栄し、世界の各国が手本にしたこともあって、それは新古典派経済学の妥当性を証明するものであった。
 同様に、経営学分野でも、第二次世界大戦後、経営学といえば、すべてアメリカ経営学であった。アメリカ経営学は、すべての国に普遍的に妥当するものとみなされ、日本でもドイツでも積極的にアメリカ経営学は研究され、その経営システムが積極的に取り入れられた。とくに、日本では、戦後比較的最近まで、日本型経営システムの特殊性は日本企業の後進性や非効率性を示すものとみなされ、それを一掃し、できるだけ早くアメリカ型経営システムへと移行する必要があると考えられていた。
 しかし、1970年代になると、一方でアメリカ経済が徐々に衰退し、他方で日本やドイツが経済大国として相対的に伸し上がってくると、経済経営システムをめぐる認識に変化が現われ、アメリカ型経済経営システムの効率性とそれを正当化する理論の妥当性に疑念が生まれた。というのも、日本もドイツも必ずしも新古典派経済学によって説明されるような教科書的経済システムをそのまま採用してこなかったからであり、またアメリカ型経営システムがそのまま日本企業でもドイツ企業でも採用されてこなかったからである。 そして、1980年代に入り、日本企業の国際競争上の優位性が明確に認識されるようになると、日本型経営システムの強さが世界的に注目され、それを支える要因を解明しようとする動きが急速に広まった。とくに、この時期、理論経済学の研究成果を応用して、日本型経営システムの経済合理性が積極的に分析され、一転して日本型経営システムの普遍妥当性と効率性がいくぶんナショナリズムともあいまって強調されるようになった。しかし、1990年代にバブル経済が崩壊し、日本企業の勢いが急速に衰え、しかも日本企業をめぐる不祥事が国内外に次々に明るみにでると、再び欧米では日本型経営システムの非効率性や異質性がささやかれている。
 このように、今日、日本型経営システムをめぐる評価は揺れ動いており、一方で日本型経営システムを特殊で後進的とみなし、それを一掃しようとする極端な古典的な見方には限界があり、他方、日本型経営システムを普遍的で効率的システムとみなす別の意味で極端な最近の見方にも限界があるといえる。何よりも、日本型経営システムを客観的に理解し評価するためには、どの経営システムも基本的には完全ではなくメリットとデメリットを併せ持つといった観点から、国際比較を通して、日本型経営システムの効率性とその限界を分析する必要があると思われる。このように、日米独経営システムを様々な観点から国際比較し、日本型経営システムの効率性だけでなく、その限界についても理論的かつ経験的に解明することが、本書の目的である。

2.本書の分析アプローチ
さて、日本型経営システムの効率性と限界を分析するために、本書では新古典派経済学のような普遍主義的な理想モデルと現実の日本型経営システムを比較するようなアプローチはとらない。ここでは、経済経営システムには理想的で普遍的に妥当するモデルが一元的に存在するというよりも、実は多様なシステムが多元的に共存しているのではないかといった多元主義的観点(青木,1995)から、日米独国際比較を通して日本型経営システムの相対的な効率性と限界を分析する。そして、そのために本書で採用されるアプローチは、こうである。
 まず、多様な経営システムを分析するために、それらを分析し説明する理論もまた多様である必要はない。多様な経営システムも、ある共通の理論と歴史的文化的に異なる初期条件のもとに演繹的に体系的に分析することができる。とくに、本書では、このような理論として、近年、新制度派経済学(New Institutional Economics)の名のもとに注目されている取引コスト理論、エージェンシー理論、そして所有権理論といった三つの理論を利用する(1)。
 これら三つの新制度派経済理論によると、企業組織は市場と同様に一種の資源配分システムあるいは資源配分制度とみなされ、経済効率性の観点から統一的に企業組織を分析することができる。とくに、これら三つの理論のもとに日米独経営システムの効率性と限界を分析し、その分析の帰結を国際比較することによって日本型経営システムの相対的効率性と限界を理論的に明らかにすることができる。
 このように、新制度派経済理論にもとづいて、本書では日米独経営システムを理論的に分析し、説明し、そして比較し、これによって日本型経営システムの相対的効率性と限界を明らかにする。このように、本書は、新制度派経済理論を理論的基礎とする国際比較研究という点に、そのユニークさがあるといえる。

     目  次
第1章 序 論
 1.本書の目的
 2.本書の分析アプローチ
 3.本書の構成

      第1部 理論的研究

 第2章 組織の経済理論の理論的補完性:新制度派経済学のメタ科学的分析
1.はじめに
2.理論間関係のメタ科学的分析
 2.1.理論の経験的内容
 2.2.理論の科学的取り扱い
 2.3.理論間関係のメタ科学的分析
3.新古典派経済学と新制度派経済学の分析
 3.1.新古典派経済学の分析
  (a)新古典派市場理論の説明範囲
  (b)新古典派企業理論の説明範囲
  (c)新古典派経済学の限界
 3.2.取引コスト理論の分析
  (a)契約理論としての取引コスト理論
  (b)新古典派経済学との関係
  (c)他の新制度派理論との関係
 3.3.エージェンシー理論の分析
  (a)契約理論としてのエージェンシー理論
  (b)新古典派経済学との関係
  (c)他の新制度派理論との関係
 3.4.所有権理論の分析
  (a)所有権構造理論としての所有権理論
  (b)新古典派経済学との関係
  (c)他の新制度派理論との関係
4.新制度派経済学をめぐる理論間関係のメタ科学的分析
 4.1.新古典派経済学と新制度派経済学の関係:理論的包摂関係
 4.2.新制度派経済諸理論の理論間関係:理論的補完性
 4.3.新制度派経済学をめぐる理論間関係
5.結 語

 第3章 組織の経済理論としての取引コスト理論
1.はじめに
2.取引コスト理論の理論的基礎
 2.1.コースの新古典派経済学批判
 2.2.コースの素朴な取引コスト理論
 2.3.ウイリアムソンの洗練された取引コスト理論
3.取引コスト理論の応用(1):組織形態論への応用
 3.1.ピア・グループと単純階層組織
 3.2.統合型組織と多事業部制組織
 3.3.中間組織
  (a)中間組織
  (b)中間組織の特徴
  (c)中間組織の取引コスト理論分析
4.取引コスト理論の応用(2):経営戦略論への応用
 4.1.垂直的統合戦略の取引コスト理論分析
 4.2.水平的多角化戦略の取引コスト理論分析
  (a)多角化戦略
  (b)関連的多角化戦略
  (c)無関連的多角化戦略:コングロマリット
 4.3.多国籍化戦略の取引コスト理論分析
5.結 語
 第4章 組織の経済理論としてのエージェンシー理論

1.はじめに
2.エージェンシー理論の理論的基礎
 2.1.新古典派経済学モデル
 2.2.エージェンシー理論の理論的基礎と基礎概念
 2.3.エージェンシー理論の理論的構想
3.エージェンシー理論の応用(1):経営財務論への応用
 3.1.自己資本とエージェンシー・コスト
 3.2.負債とエージェンシー・コスト
 3.3.最適資本構成とエージェンシー・コスト
4.エージェンシー理論の応用(2):人事労務論への応用
 4.1.情報の対称性のケース
 3.2.情報の非対称性のケース
  (a)予備的考察
  (b)リスク中立的エージェント
  (c)リクス回避的エージェント
 3.3.情報の一部対称性のケース
  (a)予備的考察
  (b)リスク中立的エージェント
  (c)リクス回避的エージェント
 4.4.拡張された研究
  (a)複数エージェント・モデル
  (b)複数期間モデル
5.エージェンシー理論の応用(3):組織形態論への応用
 5.1.契約のネクサスとしての企業組織
 5.2.組織形態分析
 5.3.組織形態のエージェンシー理論分析
6.結 語
 
 第5章 組織の経済理論としての所有権理論

1.はじめに
2.所有権理論の理論的基礎
 2.1.新古典派ワルラス・モデルの理論的基礎
 2.2.所有権理論の理論的基礎と基礎概念
 2.3.所有権理論の理論的構想
3.所有権理論の応用(1):法と歴史への応用
 3.1.コースの社会的コスト論
  (a)コースの研究意義
  (b)所有権構造が問題とならないケース:コースの定理
  (c)所有権構造が問題となるケース
 3.2.デムセッツのインディアンの土地所有制発生の所有権理論分析
 3.3.バーゼルの奴隷制崩壊の所有権理論分析
4.所有権理論の応用(2):経営組織論への応用
 4.1.企業形態論の所有権理論分析
  (a)アルチャンとデムセッツのチーム生産の理論
  (b)デムセッツの株式会社の所有権理論分析
  (c)ピコーの企業形態分析
 4.2.組織文化の所有権理論分析
  (a)取引コスト、所有権、そして組織文化の関係
  (b)生産文化の分析
  (c)官僚文化の分析
  (d)プロフェッショナルな文化の分析
 4.3.ハートの経営戦略論の所有権理論分析
  (a)残余コントロール権
  (b)統合戦略の所有権理論分析
  (c)GMとフィッシャー・ボディ社合併の事例
5.結 語
      第2部 経験的研究

 第6章 日米独コーポレート・ガバナンスのエージェンシー理論分析
1.はじめに
2.コーポレート・ガバナンスのエージェンシー理論分析
 2.1.エージェンシー理論概説
 2.2.コーポレート・ガバナンスをめぐる二つのエージェンシー問題
 2.3.エージェンシー問題とその解決案としてのコーポレート・ガバナンス
3.日米独コーポレート・ガバナンスのエージェンシー理論分析
 3.1.アメリカ型ガバナンス・システムの分析
  (a)資本構成、株式保有構造、そしてエージェンシー問題
  (b)アメリカ型ガバナンス・システム
  (c)アメリカ型ガバナンス・システムの限界
 3.2.ドイツ型ガバナンス・システムの分析
  (a)資本構成、株式保有構造、そしてエージェンシー問題
  (b)ユニバーサル・バンク制度とドイツ型ガバナンス・システム
  (c)共同決定法、ドイツ型ガバナンス・システム、そしてその限界
 3.3.日本型ガバナンス・システムの分析
  (a)中間組織とメイン・バンクによるガバナンス
  (b)中間組織とセルフ・ガバナンス
  (c)日本型ガバナンス・システムの限界
4.結 語

 第7章 日米独コーポレート・ガバナンスの所有権理論分析
1.はじめに
2.コーポレート・ガバナンスの所有権理論分析
 2.1.所有権理論概説
 2.2.コーポレート・ガバナンス問題の所有権理論的解釈
 2.3.所有権構造の所有権理論分析
3.日米独コーポレート・ガバナンスの所有権理論分析
 3.1.ドイツ型コーポレート・ガバナンスの所有権理論分析
  (a)ドイツ企業の所有権構造
  (b)ドイツ企業の所有権構造と共同決定法の影響
  (c)所有主体の明確化とドイツ型コーポレート・ガバナンス
 3.2.アメリカ型コーポレート・ガバナンスの所有権理論分析
  (a)アメリカ企業の所有権構造
  (b)市場によるコーポレート・ガバナンスの限界
  (c)所有主体の明確化とアメリカ型コーポレート・ガバナンス
 3.3.日本型コーポレート・ガバナンスの所有権理論分析
  (a)日本型コーポレート・ガバナンスの歴史的背景
  (b)現代日本企業の所有権構造
  (c)日本型コーポレート・ガバナンスの問題と解決
4.要約と結語

 第8章 日米独企業組織の所有権理論分析
1.はじめに
2.企業組織の所有権理論分析
 2.1.所有権理論
 2.2.企業組織の所有権理論分析
 2.3.堅固な所有権構造と柔軟な所有権構造
3.日米独企業組織の所有権理論分析
 3.1.アメリカ型企業組織の所有権理論分析
 3.2.ドイツ型企業組織の所有権理論分析
 3.3.日本型企業組織の所有権理論分析
4.日本型組織の効率性と経験的データ
 4.1.日本型組織の効率性と限界
 4.2.日米独企業の利益性比較
 4.3.日米独企業の生産性上昇率比較

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